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シニア世代活躍する社会を 新春座談会(下)


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「地方創生」で新たな国づくり

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「介護難民」発生に是正策を 長野
高齢者のボランティア参加も 木下

アジアの先頭走り経験活用 長野
総合サービス共同体実現を 石破
税制優遇で本社機能移転を 木下

 ――一方で、超高齢化社会を迎えています。

 木下 昔を見ると、織田信長の時代は人生50年でしたけれども、今はもう65歳でも元気な人はいっぱいいます。そうですので高齢者という言葉の使い方もそろそろ考えた方がいいかと思うんです。あまり高齢者、高齢者って言わないで、もう60歳代も70歳前後もまだまだ働き盛りというようなイメージを作って、そういう人たちがもっと積極的に働けるような、あるいは社会への参加ができるような、そういうことを考えていただきたいんですけれども大臣はいかがですか。

 石破 社長がおっしゃる通りですね。今の65歳ってだいたい昔の50歳と同じぐらいお元気ですよね。75歳の方で昔の60歳ぐらいの感じ。永田町にも、年齢にかかわらずお元気な方が多いんですけどね(笑い)。それはたぶん世間でもそうなのでしょう。そしてシニア世代の側にも、もっと働きたい、もっと社会で存在感を発揮したい、おじいちゃん、おばあちゃんって言われてもピンと来ないと思っておられる方がいっぱいいるわけですよね。そういう方々の雇用の環境も整えていかねばならない。

 これは、団塊の世代の方々がリタイアを与えられたものとしないことでもあると思いますね。労働人口をどのように確保するかということを考えたときに、まずは働く意欲をお持ちの女性や高齢者の就業にしっかりと取り組まないといけないと思っています。

 シニア世代が意欲的に働くことのできる社会づくりが必要です。これには年金制度の改革も当然含まれるわけですが、そこで「高齢者を粗末にするのか」という議論だけでは発展性がない。国会においても闊達(かったつ)な議論を期待しています。

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長野祐也氏

 木下 私が一つ思うのは、いわゆる高齢者はいろんな人生体験をし、日本の歴史、またその地域の歴史などをよく知っているわけです。もうちょっとボランティア的に働けないでしょうか。例えばの話ですが、ヨーロッパではキリスト教が社会に根付いていますが、どの教会を見てもステンドグラスがきれいにある。小さい時から子供たちがそこに行くと、ステンドグラスは単なる花とか人とかではなくて、そこに一つのストーリーがありますよね、ご存じの如く。その地域とか、そのチャーチの歴史がずっと貼られていて、それを子供たちが見て、ここの地域はこうなんだとか、自然と歴史と文化を学ぶような公共的存在がありますよ。その点、日本にはちょっとありません。そこで高齢者の知恵を生かして、公園の中にもそういうようなものを、おじいさんや、おじさん、おばさんたちが作って並べるなどしたらどうでしょうか。そういうことをやっていくと子供たちもここは自分たちの故郷で誇れるところなのだという思いになってくると思うんですね。そういう高齢者の参加の仕方もあると思います。

 石破 団塊の世代というのは、ある意味、戦後の価値観の大転換の頃に生まれた人たちです。

 木下 いわゆる安保世代の人たちですね。

 石破 この世代の方々が、俺たち、私たちも地方で活躍するんだという意識を持っていただけると、大きく変わっていくのではないでしょうかね。去年、非常に有名になった島根県の隠岐島・海士町(あまちょう)では、財政が厳しいため、町長や幹部職員が給与カットなどをしたら、町のシニアたちから「俺たちの町営バス料金をもっと上げてくれ、高齢者優遇なんてやめてくれ」との申し出があったといいます。

 また、徳之島の伊仙町長からも、シニア世代が「俺たちに対する町の予算を削って、それを若い子たちの教育に回してやってくれ」とおっしゃると聞きました。このようにシニア世代が自らの在り方を自ら決めていかれるという例はあるんです。このような非常に良い事例を、より多くの方々にご紹介していきたい。これはとりもなおさず、地域、地域の本気度が問われるということでもあります。「じゃあ俺たち、私たちもやらなきゃ。今までも家族のため、社会のため、日本のために働いてきたけれど、これからもやらなきゃ」という思いを持っていただくことが必要です。

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石破茂地方創生担当大臣

 長野 私は少し違う角度の話になりますが、今後、高齢者の急増は主に東京などの大都市部で発生するんですね。地方はあまり大きくは変わりません。東京に人が集中してきたことでどんなことが起きるかというと、要するに医療や介護を必要とする人が急増するんです。しかし65歳の人口のうち高齢者施設に入居できる割合は、全国で3番目に東京が低くて3・2%なのです。将来、「介護難民」というのが大量に生まれてくる。それを是正していく上で参考になることがアメリカにあるんですよ。

 CCRCというんですが、コンティニュイング・ケアー・リタイアメント・コミュニティーっていう、要するに「持続したケアーを」という理念です。住民が老化するにつれて変わっていくニーズに応じ、住居、生活サービス、介護、看護、医療サービスなどを総合的に提供していく施設サービスの共同体なのです。これを参考にしつつ、日本の実情とニーズを踏まえた日本版のCCRCを作る。これは大いに検討するに値するテーマだと思います。

 それから、超高齢化社会で申し上げたいのは、大臣が超高齢化社会という「ピンチをチャンスに変えるんだ」という発言をされて、これはさすがだと思いました。つまり日本が味わっていくこれからの超高齢化社会の苦しみは、他のアジアの国も含めて皆がこれから経験していくことです。そういう意味ではトップランナーなんですよ。経済の世界でいえば省エネルギー政策みたいなものができたものを、簡単なことではないけれど、超高齢化社会のシステム作りでも同じことができるならばいい。今すでに、例えば介護の大手のニチイには中国からいろいろな視察が来ているんですね。ですから日本が高齢化社会を乗り切れば成功報酬は極めて大きいわけで、そういうトップランナーの発想があればピンチをチャンスに変えることができるのではないかと思っています。

 石破 今、長野先生がおっしゃったCCRCについては、私はかなり力点を置いており、総合戦略の中にも入れました。CCRCの最初の頭文字「コンティニュー」っていうのは、人生を終えることよりも、そこで人生を継続するということに重きを置いているという意味があります。そこに「ケアー」がついている。もう一つ大事な点は、そこにおいてコミュニティーを作るということ。初期高齢者になってから新規に行くのではなく、あらかじめコミュニティーが作られていて、そこには若い人たちも来るし、医療もあるし、仕事もある、ということです。要介護になってから地方の特別養護老人ホームに移住するということもある程度は必要でしょう。ですが、その前段階で、あらかじめ地方において自己実現をし、そのコミュニティーで暮らし、そこにケアーもある、というのがCCRCのコンセプトだと思います。アメリカのCCRCは、どちらかというと高額所得者が主に対象とされていますが、日本では、より一般的な人たちが参加できるようなものを作りたいと思っています。これは急いで研究し実現をさせたいと思います。

 長野 ぜひともよろしくお願いします。

 木下 それと、地方の活性化ということで言いますと、企業の本社機能を地方に移すと法人税の優遇税制を受けられるということがあれば、地方への人口移転、雇用の増大、復興にいい影響を与えられるということを重視しなければいけないと思います。東京都知事は当然、消極的な発言をしていますが地方からもっと積極的な誘致のアピールがあってもいいと思いますね。

 石破 そうですね。企業の本社機能の移転については、以前から地方活性化にとっての有用性を指摘されているんですが、例として挙がるのはいつもコマツ、YKK、それからアクサ生命の三つなんですよ。コマツの坂根正弘相談役は、地方に本社機能を持つことがいかに素晴らしいかを常に力説しておられるにもかかわらず、なぜ後が続かないのかを考え、対策を考える必要がある。「コマツは小松市発祥だから」と言われますが、あらゆる企業が東京発祥のはずはなくて、名だたる大企業でも地方発祥のところはいっぱいある。だから、それはあまり理由にならない。そうすると何なんだろうと。

地方の土壌つくり日本再生

難題を克服して次に備えよ 長野
自治体から魅力ある提案を 石破
地方で研究できる好環境を 木下

「再生」でなく「創生」に意味 石破
国会で腰高の姿勢を取るな 長野
近視眼的でない国家再興を 木下

 石破 ご指摘のように、税制の面が一つの理由としてあるでしょうね。もう一つは、地方に行く被雇用者とその家族のライフプランの問題があります。地方に行っても、子供はいい大学に行けるのだろうか。じいちゃん、ばあちゃんを置いては行けないが医療、介護は大丈夫だろうか。このようなインフラを地方に整えていくことも企業移転の環境づくりにつながるのではないでしょうか。

 また、民間企業の本社機能を地方に移せと言うなら、「霞が関はどうなんだ」っていう声は必ずあります。これも、例えば、経済産業省の一部だけを地方に移すとか、厚生労働省の医薬品の研究開発・許認可などの外郭団体を、「薬の富山」に移すとか、可能性は多々あるわけです。これらも、「来てほしい」という地方自治体にぜひ手を挙げていただけたらと思っています。例えば医薬関係で富山、文化庁関係で京都、復興庁関連で福島、という話は、全国的に見ても納得感がありますね。だから自治体から「うちに来てくれればいま東京にあるよりももっと良い成果が上がりますよ」ということを提示していただくところから始まるのではないかと思っています。

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地方創生担当大臣室で行われた新春座談会

 木下 ノーベル賞の受賞者もサイエンス関係は地方の大学の人が多いですしね。そういう点においてはやはり地方でじっくり研究をする、そうすればそこで大学のイメージアップにもなって、何も東京まで来なくてもいいということになりますね。地方の方がもっと研究がじっくりできていいという環境づくりもできればまたいいということになります。また、若者を地方に定着することを促進するために文部科学省や総務省が15年度から地方に就職する大学生らを支援する奨学金制度を創設することも効果があるでしょう。自治体が地元企業と共同で基金をつくり学生が卒業後、地元企業に勤めれば奨学金の返済額を減免し、国もその自治体に特別交付税を配分して支援するということなので、可能性はかなりありますよね。

 今年の国会では地方創生がメーン中のメーンの課題ですが、その他、安全保障等々、いろいろ難しい問題があります。大臣は、これからの10年間が一番大変であり、国難の10年、礎となる10年というような長期の視点での認識に立っていますね。今度の国会を含めてこの10年先の日本を見つめていらっしゃいますので、それをどのようにしていこうとしているか、意気込みを聞かせていただければと思うのですが。

 石破 それはまさに、「地方再生」と言わないでなぜ「地方創生」、クリエーションという意味合いのある言葉を使っているかということなのだと思います。私は鳥取で小学生、中学生時代を過ごしました。主に昭和40年代ですね。地方が本当に元気でした。まだ新幹線も高速道路も航空路も大して発達していなかったが、地方がすごく活気づいていました。子供心に「わくわくする地方」があって、それは日本国中ほとんど一緒だったと思います。

 しかしその頃、地方を引っ張っていたものは何だったんだろうと考えると、公共事業と企業誘致だったわけですよ。目に見えて道路、港湾、下水道などのインフラが整備され、また目に見えて企業が地方に工場などを作って雇用が創出された。あれから40年たった今、同じことをもう一回といったってそれは無理です。公共事業は新規ではなくメンテナンスがメーンになりますし、企業にとっては人件費と市場を考えれば普通の工場は海外に作った方が良いに決まっています。これらを前提として、地方において独自の新しい価値を生んでいく必要がある。しかしそれは霞が関や永田町では分かりません。今まで公共事業と企業誘致の陰に隠れ、潜在力を伸ばしてこなかった地方の農業、漁業、林業、観光、医療、介護、エネルギーなどを地方自身の知恵によって伸ばしていくことにより、新しい地方を創るというのが地方創生の本質であり、また地方から日本創生を成し遂げるということです。今年はその土壌を作る1年にしたいと考えています。

 そして今年はまた、戦後70年の節目の年です。日本は戦後70年なんて言っていますけど、中国や韓国やロシアにしてみると対日戦争勝利70年。わが国の周辺国では全く違う意味合いを持つわけですね。そうすると、今年どういう外交・安全保障政策を展開するかというのは、普段以上に「向こうから見たらどう見えるのか」という視点を重視することが大事だと思います。また、それと併せて、安全保障法制の整備も含め、わが国として隙のない体制を作っていく。海外に対して日本の正当性を主張することも大事ですが、価値観や歴史観は国の数だけあって当然で、日本が主張したからといってそんなに簡単にそれが認められるわけではないでしょう。

 とにかくはっきりしていることは、「隙があれば付け込まれる」ということですから、隙のない体制を作ることが優先されると思います。法律、条約、装備、運用など、そこに何か隙はないだろうかということを、まずもう一度検証し、不備をきちんと整備していく年にしなければいけないと考えます。

 ――最後に大臣に期待することは何ですか。

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木下義昭

 長野 石破地方創生大臣が生まれた時、ふと浮かんだのが、私が1年生代議士の時に、政治の師匠であった中曽根康弘先生が行政管理庁長官になられたときのことです。

 石破 あっ、その頃ですか。あーそうなんだ。

 長野 当時はミッチーさん(故渡辺美智雄氏)が大蔵大臣で、行管庁長官の前任者が自分の子分の宇野宗佑さんだった。非常にご機嫌がななめで、しばしばカラオケに誘われてうっぷん晴らしのお相手をさせられていたんですが、ある時点から、それが先の国鉄改革とか行政改革という大きな仕事が生まれて、生まれてというか作っていって、それが総理の道につながりました。是非、石破大臣にも地方創生という大変いろいろな官庁にまたがって難しい、今までも「ふるさと創生」とかいろいろなものがありましたけれどなかなか具体的な成果が上げられなかった、やっかいなお荷物的な問題ではありますが、大事な問題ですので是非これをやり遂げて、“第2の中曽根”になっていただきたいということを、私は期待しております。

 石破 ありがとうございます。

 木下 ちょうど中曽根先生がその行政管理庁長官の時、私もインタビューに行き「行政改革を“大物長官”に期待していいのか」という質問をし「やはり誠意を尽くして一つ一つ片づけていくという地味な着実な態度が望ましいと思っています」と語っていましたが、その気持ちはよく分かりました。でも手腕を発揮されあの後は、見事に総理になられました。

 石破 行革三昧ということでしょうかね。

 木下 地方三昧で!

 長野 でも最初は全然そうではなかった、という裏話もありましてね。

 石破 私はひょっとしたら中曽根先生が自ら望んでやられたのではないかと。違うのですか。

 長野 必ずしもはじめはそうではないですね。しかしそれが総理への道を開くことになるのですね。

 私は、今年の国会における政権の政治姿勢としては、安倍首相が集団的自衛権の行使をめぐり、総選挙での討論会などでこれまでよりも山口公明党代表に近い発言を繰り返し自民、公明の足並みに乱れは無いという姿勢を強調しようとしましたが、こうした姿勢は国会審議でも継続すべきだと思います。両党の間にある高い敷居をさらに低くしようとするならば、それは堂々と憲法改正によるべきです。そうしないと憲法改正を長年求め続けてきた本来の改憲派の人々が納得しないでしょう。長期政権を目指すならば野党に足元をすくわれ、国民の不興をかうような腰高の姿勢を取ってはなりません。一つ一つの課題を乗り越え、次の大きな政治決戦になる2016年夏の参議院選挙に向かっていくことが大事だと思います。

 木下 選挙の結果が圧勝といっても少しでも傲慢(ごうまん)な姿勢を取れば国民の支持はすぐに失われていくでしょう。丁寧な国会運営を心掛けることが肝要です。地方へのてこ入れを近視眼的に4月の統一地方選対策という姑息(こそく)なばらまきにしてはなりません。地方創生は国家の再興に直結するほどの大きな課題です。新たな国づくりにも直結しています。明確な理念とビジョンをはっきりと打ち出し安倍総理以上の熱意で陣頭指揮していただきたいと思います。地方と国をますます元気にそしてたくましくするために一層のご活躍を期待しています。

 ――本日はありがとうございました。