米朝首脳会談へ、北に時間稼ぎをさせるな


 トランプ米大統領は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談に5月までに応じる意向を示した。正恩氏はトランプ氏へのメッセージの中で「直接会い、話をすれば大きな成果を出すことができるだろう」と述べたという。

 国際社会を欺き続けた北

 米国でトランプ氏と会談した韓国の鄭義溶国家安保室長は、訪朝時の正恩氏との会談結果を説明。正恩氏は非核化に応じ、核・ミサイル実験を凍結する意思を明らかにしたほか、米韓合同軍事演習の継続にも理解を示したとされる。

 正恩氏が本気で非核化を実現するというのであれば、日本にとっても朗報だ。しかし、正恩氏の言葉を頭から信じることはとてもできない。

 北朝鮮は2005年9月の6カ国協議共同声明で、すべての核兵器と核計画の放棄を確約した。それにもかかわらず、06年10月には初の核実験を強行。08年10月には米国が6カ国協議の合意に基づいて北朝鮮のテロ支援国家指定を解除したが、核放棄にはつながらなかった。

 6カ国協議は08年12月に中断しており、北朝鮮の核開発のための時間稼ぎに利用された形だ。こうした経緯もあって、日本や米国は北朝鮮の「完全かつ検証可能、不可逆的な方法による核・ミサイル計画の放棄に向けた具体的な行動」を対話の条件としていた。トランプ氏は北朝鮮の真意を見極め、米朝首脳会談を核開発の時間稼ぎに利用させないことが必要だ。

 最近の北朝鮮の融和姿勢が国際社会による制裁の効果であることは確かだが、核開発は故金日成主席、故金正日総書記の「遺訓」だ。体制保障の鍵が核兵器だと考える正恩氏が、簡単に核を手放すとは思えない。

 韓国の文在寅大統領は4月末に正恩氏と南北首脳会談を行う予定だ。米韓両国に対する北朝鮮の揺さぶりが奏功しているように見える。このままでは、正恩氏のしたたかさが印象付けられるだけだろう。

 安倍晋三首相はトランプ氏との電話会談で、4月初旬に訪米し、北朝鮮問題をめぐってトランプ氏と協議することを確認した。北朝鮮が核放棄に向け具体的な行動を取るまで、今後も最大限の圧力をかけていく方針で一致したのは当然だ。

 懸念されるのは「米国第一」を掲げるトランプ氏が、北朝鮮が米国を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発をやめることを条件に「核保有国」として認めるという「取引」を行わないかということだ。そうなれば、日本にとって北朝鮮の核の脅威はこれまで以上に増大する。安倍首相は4月のトランプ氏との会談で、北朝鮮の非核化が日米共通の目標であることを改めて確認すべきだ。

 日本は北朝鮮との間に核・ミサイル問題のほか、拉致問題を抱えている。トランプ氏が正恩氏との会談の意向を示したことで、拉致被害者の家族からは問題解決に向けて期待する声が上がった。

 非核化と拉致解決求めよ

 トランプ氏は正恩氏と会談するのであれば、非核化とすべての拉致被害者の解放を強く求めるべきだ。