失望を招くオバマ大統領の一般教書演説


 オバマ米大統領は今後1年間の内政・外交全般の重要政策課題について議会に説明する一般教書演説を行った。支持率低下に悩むオバマ政権への審判となる11月の中間選挙を多分に意識してか、外交に関する部分は少なく、内政中心の演説だった。これでは「内向き」と評価されても仕方がない。

 中間選挙を意識した内容

 大統領は「今年は行動の年にしよう」と呼び掛け、主要政策課題に格差是正を掲げた。大統領令で連邦政府の契約職員の最低賃金を時給7㌦25㌣から10㌦10㌣に引き上げる考えを示すとともに、国レベルでの最低賃金引き上げを議会に要請した。

 また、手続き上の混乱が続く中、今年から全面的に実施される医療保険制度改革法(オバマケア)への理解を求めた。さらに長期失業者の再就職支援や雇用創出など重点政策の実現に向けて決意を表明し、議会の承認を不要とする大統領令などの権限を最大限行使する考えを明らかにした。

 演説に先立ち、大統領は「米国民に必要な支援を確実に提供するため、われわれは単に法案成立を待つようなことはしない」と記者団に語り、「私にはペンがあり、そのペンで大統領令に署名し、職権で行動を起こすことができる」と述べた。

 中間選挙を意識しての発言であることは確かだが、共和党議員からは行き過ぎた権限行使だとして批判の声が上がっている。昨秋には予算不成立で政府機関が閉鎖されるなど議会では与野党対立が先鋭化している。これ以上、共和党との溝を深めてはなるまい。

 演説で外交に割かれた時間はわずかだった。昨年は東南アジア訪問の中止、シリアに対する武力行使への逡巡など迷走ぶりが露呈した。それだけに、オバマ大統領には外交をめぐって世界に向けた積極的発言が期待されたが、演説では中東問題への関心を示したものの、アジア太平洋地域についてはさらりと述べただけであった。日本や台頭する中国への対応に関しても言及はなかった。

 中国は昨年11月、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定したほか、今年に入って南シナ海での外国漁船操業を規制する法的措置を講じた。こうした海洋進出に歯止めを掛ける上で、周辺諸国には米国との連携が欠かせない。しかし、オバマ大統領が「内向き」の姿勢を強めれば、これらの国々の失望を招こう。

 米議会下院軍事委員会はこのほど、オバマ政権が進めるアジア重視の国防政策について公聴会を開き、ケンダル国防次官は「中国の国防予算は米国よりも少ないが、人件費の占める割合は非常に小さく、米国では人件費の割合が大きい。今は米国が優位だが、5年後、10年後は分からない」と述べた。大統領には抑止力維持に指導力を発揮することが求められる。

 アジア重視を行動で示せ

 アジアに位置し、米国の同盟国である日本としては、オバマ大統領に中国の脅威への対処について率直な言葉で述べてほしかった。内政ばかりでなく外交においても今年は「行動の年」であってほしい。

(1月31日付社説)