露年次教書、対日交渉引き延ばしが狙いか


 ロシアのプーチン大統領は、内政・外交の基本方針を示す恒例の年次教書演説を行った。

 このところ首脳会談や外相会談が重ねられている日露平和条約交渉については「われわれは日本との政治的対話と経済協力を促進し続けるだろう。平和条約締結のため相互に受け入れ可能な諸条件を共同で模索する用意がある」と述べた。

米国への対決姿勢も

 安倍晋三首相とプーチン氏は昨年11月、北方四島のうち歯舞群島と色丹島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を進めることで合意した。しかしロシア側は、交渉責任者のラブロフ外相が強硬姿勢を前面に出している。

 今月に行われた河野太郎外相との会談後にも、北方領土の主権はロシアにあるとの立場を改めて強調した。このような態度では「相互に受け入れ可能な諸条件を共同で模索する」ことなどできまい。プーチン氏の発言は交渉引き延ばしを狙ったものと取れなくもない。

 ラブロフ氏は北方四島を「第2次大戦の遺産」と強弁するが、到底受け入れられない。北方四島は日本固有の領土である。第2次大戦末期の1945年8月9日、旧ソ連は当時有効であった日ソ中立条約を無視して対日参戦し、不法占拠した。本来であれば、ロシアはすぐに4島を返還すべきである。

 日本政府の姿勢もおかしい。「北方領土の日」の7日に行われた北方領土返還要求全国大会では、大会アピールで例年使用している「不法占拠」の表現を削除した。

 首相もあいさつで、政府の基本方針を「領土問題を解決して平和条約を締結する」と説明。「北方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」とした昨年までの表現を修正した。平和条約交渉への悪影響を懸念したためだが、これではロシアに足元を見られるだけだ。

 首相は2島返還と残る2島での共同経済活動を組み合わせた「2島プラスアルファ」での決着を模索しているとされている。

だが歯舞と色丹が返還されたとしても、残りの国後、択捉両島の返還はどのように実現するのか。成果を焦れば、将来に禍根を残すことになろう。

 一方、プーチン氏は演説で中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄に動いた米国に対決姿勢をむき出しにした。条約が禁止する地上発射型の中距離ミサイルが欧州に配備された場合には「深刻な脅威となる」との認識を示して「ロシアは(米国も)射程に収める兵器の製造・配備をせざるを得ない」と米国を強く牽制(けんせい)した。

 これは米国の同盟国である日本にとっても看過できない発言だ。ロシアは日本政府が米国から調達する陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」についても、INF全廃条約違反だと批判している。

「法の支配」で国際連携を

 北方領土問題でロシアが強硬姿勢を示す背景には、返還後に米軍基地が置かれることへの懸念もあろう。国際法に違反して北方領土を占拠するロシアと交渉していく際には、法の支配などの価値観を共有する欧米諸国との連携強化も求められる。