露の拒否権行使、化学兵器使用を容認するのか


 シリアでの化学兵器攻撃疑惑をめぐって国連安全保障理事会が採択した非難決議案は、ロシアの拒否権行使で否決された。

 非人道的な化学兵器の使用を容認したとも受け取れる姿勢は許し難い。安保理常任理事国による拒否権の乱用だ。

 シリア決議案は否決

 決議案は米英仏が提出を主導したもので、化学兵器攻撃を非難し、シリア政府に調査への全面協力を求める内容だった。採決では理事国15カ国中、10カ国が賛成。ロシアとボリビアが反対し、中国、エチオピア、カザフスタンは棄権した。

 化学兵器禁止条約(CWC)は、大量破壊兵器である化学兵器の開発・生産・保有の禁止と、加盟国による全廃を義務付けている。その使用は決して許されない戦争犯罪だ。

 在英のシリア人権監視団によれば、シリアでの化学兵器攻撃による死者は15日時点で88人に達した。このうち31人が子供、21人が女性だという。米政府は攻撃について、シリア軍機の飛行記録などを根拠に「(アサド)政権に責任があるのは疑いない」(マティス国防長官)と主張している。

 国際社会は真相の徹底解明を急ぐべきだ。アサド政権が使用したという明確な証拠が発見された場合、シリアに対して強力な制裁を科す必要がある。

 しかし、ロシアは決議案を「客観的な調査を行う前から犯人を決め付けている」(サフロンコフ国連次席大使)と批判し、拒否権を行使した。安保理常任理事国が戦争犯罪を放置するのか。調査を拒むかのような姿勢は理解し難い。

 ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでは今月初め、中心部の地下鉄で発生した自爆テロで、14人が死亡、50人以上が負傷した。容疑者は2月、約1カ月間キルギスに滞在しており、この間にイスラム過激主義に傾倒したとの見方も出ている。

 無辜(むこ)のロシア国民をテロの標的とすることは決して許されない。そして、テロと同様に化学兵器使用も残虐で非人道的な行為であることに変わりはないはずだ。

 ロシアのプーチン政権は「国際テロとの戦いに取り組むことは最優先事項」とし、過激派組織「イスラム国」(IS)への軍事作戦を展開している。化学兵器使用に対しても厳しい姿勢で臨まなければなるまい。シリアと後ろ盾のロシアは調査に協力すべきだ。

 欧米主導のシリア決議案が、ロシアの拒否権行使で否決されるのはこれで8回目となる。機能不全に陥った安保理は、シリア問題で有効策を打ち出せていない。

 シリア内戦は、アサド政権が2011年3月、反政府デモを武力弾圧したことで始まった。ISの流入などで泥沼化し、これまでに30万人以上が死亡したほか、欧州に多数の難民が流入して排外主義が台頭する原因の一つともなった。

 和平への取り組み強化を

 アサド政権は多くの自国民を虐殺しており、政権の正統性は失われている。

 国際社会はシリア和平と新政権樹立の実現に向けた取り組みを強化すべきだ。