新極東発展相の任命で日本は対露戦略を練り直せ


 我が国と関係の深かったビクトル・イシャエフ氏が、8月末に極東連邦管区大統領全権代表と極東発展相の職務を解任された。後任大臣にはロシアの新しい世代を代表する若手実業家兼コンサルタントのアレクサンドル・ガルシカ氏が任命された。

 ただ、ガルシカ氏はこれまで極東とは接点が乏しい人物だ。北方領土交渉を進展させるためにも、日本は新たな対露戦略を構築する必要がある。

開発加速が狙いの人事

 イシャエフ氏が二つの公職から解任された理由について、極東発展省の運営や今夏の大洪水への対策のまずさと関係があるのではないかと推測された。また、極東開発の資金を連邦財政支出に頼ろうとするイシャエフ氏と民間投資を優先させたい大統領周辺との間に確執があったことは周知の事実である。

 新大臣のガルシカ氏はプーチン大統領の側近の一人である。トルトネフ極東連邦管区大統領全権代表の任命と併せて、この極東発展相人事には、政権が重視する極東開発に本腰を入れ、それを中央主導で加速させたいというクレムリンの狙いがあると見られている。

 ただ、ガルシカ氏は2011年8月から12年6月まで「極東、ブリヤート共和国、ザバイカル地方、イルクーツク州の社会・経済発展問題国家委員会」のメンバーだったことはあるが、ロシア極東にはほとんど縁のない人物だ。日本とロシア極東との関係にマイナスの影響が出る恐れもある。

 日露両国の経済交流は、ロシア経済の好調もあって、近年活発である。9月のサンクトペテルブルクでの首脳会談でプーチン大統領は安倍晋三首相に、日露経済連携に関して、両国の貿易が増加している点を特に指摘し、「さまざまな分野で協力を目指したい」と言明。両首脳は極東開発やエネルギー、農業などの分野で協力することを確認し合ったと伝えられる。

 確かに、02年には約50億ドルだった両国の貿易高は12年、335億ドルと最高を更新した。過去10年間で7倍近くに膨らんだことになる。日本からの輸出は主に自動車関連、ロシアからは原油・天然ガスが全体の7割近くを占めている。リーマン・ショックの影響で一時落ち込んだ09年以外は、右肩上がりで貿易額は増えた。

 12年の実績を見ると、日本の対露輸出額は126億ドル。対してロシアの対日輸出額は209億ドルで、日本の輸入超過となった。貿易相手国としては、日本から見るとロシアは14位、ロシアにとって日本は9位である。

 ロシア極東地域では人口減少に歯止めが掛からない一方、アムール川を挟んで接する中国の人口圧力が高まり、同地域を中国に奪われることへの警戒感が強まっている。ロシアにとって、日本の投資を呼び込むことで極東経済を活性化させることは、大きな意味を持つ。

領土交渉は露極東念頭に

 トルトネフ新代表とガルシカ新大臣はプーチン大統領の側近である。日本は領土交渉に臨む上で、こうしたロシア極東の情勢を念頭に置きながら、極東とのパイプを太くしていく必要がある。

(10月21日付社説)