韓国特使団訪朝、北の立場を代弁するのか


 韓国大統領の特使として鄭義溶国家安保室長ら5人が訪朝し、今月18日から20日まで2泊3日の日程で北朝鮮の平壌で南北首脳会談を行うことなどで北朝鮮側と合意した。6月の米朝首脳会談後、両国の協議が難航する中、再びその橋渡し役を果たそうというものだ。

 だが、北朝鮮に非核化を迫る気概はあまり感じられず、逆に北朝鮮の立場や利害を代弁し擁護するような姿勢が目立つ。先行きが危ぶまれる。

 「非核化の意志固い」

 特使団は金正恩朝鮮労働党委員長と会談し、文在寅大統領の親書を手渡すとともに首脳会談開催や南北関係全般について幅広く話し合ったと明らかにした。実現すれば、文政権としてはこれで3回目となる南北首脳会談である。頻繁に意思疎通を図ることは必要だが、何より重要なのは滞っている非核化交渉を進展させる仲介役を果たせるかにある。

 帰国後の記者会見で鄭氏は、朝鮮半島の完全な非核化について「正恩氏は固い意志があることを再確認させてくれた」と述べた。しかし、ここ数カ月、北朝鮮は繰り返し非核化に言及しながら、実際には核関連施設の稼働を示す動きが至る所で確認されている。明らかな言行不一致だ。

 会見によれば、正恩氏は非核化に向けた具体的な措置を国際社会が評価しないことに苛(いら)立ちを募らせた。その具体的な措置として、北東部の核実験場で坑道の3分の2を崩落させ「核実験が恒久的に不可能」となり、国内唯一だという北西部のミサイルエンジン実験場でも解体作業が進んで「今後、弾道ミサイル発射は中止される」ことを挙げたようだ。

 だが、核実験場の再建はいつでも可能であり、ミサイル発射台は今や移動式が主力だ。北朝鮮の措置はあくまで表面的なものにすぎず、非核化を拒み国際社会を欺瞞(ぎまん)する戦術の可能性すらある。苛立ちを募らせているのは国際社会の方だ。

 会見では、北朝鮮が米国に執拗(しつよう)に要求する休戦状態にある朝鮮戦争の終戦宣言をめぐり米国や韓国内の保守派が憂慮している点について正恩氏から説明があったことも明らかにされた。正恩氏は終戦宣言が米韓同盟の弱体化や在韓米軍撤収につながるようなことは全くないと言ってきたという。

 しかし、これも何の根拠もない話だ。北朝鮮は建国以来、党綱領などで一貫して韓国を「解放と革命」の対象と位置付け、米韓同盟と在韓米軍に対し憎悪をむき出しにしてきた。

 いずれも平壌で行われた2000年、07年の南北首脳会談では韓国の大規模な対北経済支援が約束された。北朝鮮に対する国際社会の制裁が続くにもかかわらず、文政権が北主導の融和演出に乗って経済支援を約束させられはしまいか懸念される。

北に寄り添うのは問題

 今年4月、5月の南北首脳会談は米朝会談にこぎ着けたい正恩氏の意向をくんだ形で行われたと言えるが、今回も同様に韓国が北朝鮮の立場に寄り添う形で臨むとすれば問題だ。非核化が置き去りにされたままの接近は北朝鮮を利するだけだ。