徴用工像撤去、日韓関係改善に欠かせない


 韓国南東部・釜山の日本総領事館沿いの公道に放置されたままだった徴用工像が、像を持ち込んだ労働団体が撤去に応じなかったため、韓国当局により強制的に撤去された。2015年末のいわゆる従軍慰安婦問題をめぐる日韓合意が韓国側の不履行で宙に浮き、未来志向を目指すべき両国関係の足かせになっている中、今回の撤去は日韓関係を改善させる上で欠かせない措置である。まずは歓迎したい。

 韓国政府が日本に配慮

 像は戦前の日本統治時代に動員された朝鮮半島出身の徴用工を追悼するためのもので、過激デモで知られる韓国の全国民主労働組合総連盟(民主労総)が先月1日のメーデーに合わせて設置を試みた。だが、韓国政府の方針に従ってこれを阻止しようとした警察ともみ合いになった末、総領事館から数十㍍離れた歩道上に放置され、警察が像への接近を防ぐように警備に当たっていた。

 設置が物議を醸したのは外国公館の安寧と威厳を損ねる行為を禁じた「外交関係に関するウィーン条約」に反するためだ。しかも当初の設置予定地はすでに市民団体によって建てられた慰安婦を象徴する像のすぐ横であり、日韓関係の火種になっていた。

 像撤去は韓国政府が4月の南北首脳会談や今月予定されている米朝首脳会談での対話ムードを持続させるには日本に一定の配慮をする必要があると判断したためとみられる。韓国・文在寅政権としては話し合いで北朝鮮に非核化を決断させ、朝鮮半島に平和体制を構築しようとしている今、周辺国との関係をいたずらにぎくしゃくさせるのは得策ではないと考えたはずだ。

 だが、徴用工像を撤去させただけでは不十分だ。本格的に日本との関係改善を図るには、韓国が慰安婦合意で「努力する」と約束した在ソウル日本大使館前の慰安婦像はもちろん、釜山にある像まで撤去すべきというのが日本の立場だ。文政権はいずれこの問題に正面から向き合わなければならない。

 撤去された像は市内にある「強制動員」をテーマにした歴史館で一時保管中だが、団体は地元自治体に撤去費の支払いなどを済ませば、いつでも取り返すことができる。再度、設置を強行しようとする恐れがある。

 団体はこれまでに日本人観光客も多いソウルなど韓国国内3カ所に同様の像を設置しているほか、北朝鮮の平壌に設置する計画もあるという。北朝鮮問題で日韓が連携を深めるべき時に、歴史認識問題をめぐり南北が反日で共闘するようなことになれば、逆に日韓の距離は遠ざかってしまう。

 今年は小渕恵三首相と金大中大統領が未来志向の関係発展をうたった日韓パートナーシップ宣言の発表から20年の節目だ。これを契機に関係改善の流れをつくる努力が求められよう。

 重要な対北朝鮮連携

 米朝首脳会談の行方に世界の耳目が集まっているが、北朝鮮が言及する「非核化」がどの程度のものなのか不透明である以上、安全保障をめぐる日米韓の対北朝鮮連携は何ら変わることなく重要だ。日韓はこの点を踏まえ協力を強化すべきだ。