北朝鮮の特使訪露、中露の後ろ盾こそ問題だ


 北朝鮮の最高指導者、金正恩第1書記の特使として最高幹部の一人である崔竜海・労働党書記がロシアを訪問し、プーチン大統領らと会談した。北朝鮮はこのところ中国との政治的関係が冷え込んでおり、もう一つの伝統的な友邦国であるロシアに接近することで、国際的に孤立無援の状態を回避するのが狙いだろう。

 北擁護に厳しい評価

 崔書記はプーチン大統領に金第1書記の親書を手渡し、韓半島情勢や経済協力など2国間の懸案を話し合ったとされる。その後、別途に崔書記と会談したロシアのラブロフ外相は記者会見で、プーチン大統領と金第1書記による首脳会談の可能性に含みを持たせた。

 崔書記はモスクワでの日程を終えた後、極東地域も訪問し、農業分野の協力などについて現地の責任者らと意見交換した。経済が疲弊したままの北朝鮮にとって外貨獲得は喫緊の課題である。

 北朝鮮は中露との協力関係を重視してきた。金第1書記の父、金正日総書記が生前、最高指導者として外遊したのはこの2国のみだった。死去の数カ月前、金第1書記への後継を急いでいた2011年夏には、体調不良を押してまでロシア訪問に続く中国訪問という強行軍を果たしている。

 まだ若く、権力基盤が弱い息子の「後見」を頼みたいという切実な思いを抱いていたに違いない。

 金総書記死去後、金正恩体制になってからも北朝鮮は張成沢・労働党行政部長や崔書記ら最高幹部を中国に派遣し、今回はロシアを訪問させた。核実験などで地域の安全保障を脅かしていることに反発する中国・習近平国家主席と関係が悪化するや、北東アジアへの影響力を強めようとしているロシアに近づくしたたかな「二股外交」を展開している。

 北朝鮮が国際社会の一員になることを拒み、中露との協力関係を後ろ盾に民主主義や安全保障に挑戦的な態度を取り続けていることがまずは問題だが、それにも増して懸念されるのは、そうした北朝鮮を受け入れ続ける中露の姿勢だ。

 中国は世界第2の経済大国となり、米国と並びG2時代を担う責任ある大国だ。ロシアもウクライナ問題が勃発するまでは主要8カ国(G8)の一員だった。その中露が独裁国家・北朝鮮の後ろ盾となることは、時計の針を戻すようなものだ。

 中国は沖縄県・尖閣諸島沖や西・南沙諸島海域で力による現状変更を試み、ロシアも日本や欧米の非難をよそにウクライナ南部クリミア半島を編入する動きを見せている。こうした中で、北朝鮮擁護の立場をとり続けるなら国際社会の中露に対する評価は厳しくならざるを得ないだろう。

 「正常国化」へ働き掛けを

 拉致をはじめ核やミサイル、国内での人権蹂躙(じゅうりん)など北朝鮮をめぐる問題を解決する上で、中露の北朝鮮支持は大きな障害になっている。日本には米国や韓国と連携し、地政学的な利害や思惑を超えて北朝鮮を「正常国化」させるよう中露に働き掛ける外交が求められる。

(11月24日付社説)