ウクライナでの衝突招いた露の責任は重い


 パレスチナ自治区ガザへのイスラエルの軍事攻撃やイスラム根本主義組織ハマスの反撃などの話題がクローズアップされている一方で、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州でも悲惨な軍事衝突が日夜、展開されていることに注目したい。

 月初めのポロシェンコ・ウクライナ大統領の停戦再延長拒否の声明の後、親露派武装集団掃討作戦が実施された。ウクライナ軍は空爆を含む本格的な作戦に踏み切ったのである。

 東部の親露派を煽る

 ウクライナ保健省は先日、軍事作戦が始まった4月以降、478人が死亡し、1392人が負傷したことを明らかにした。死傷者数はその後増え続けているに違いない。この軍事作戦ではウクライナ軍兵士や武装集団側だけでなく、国境付近の一般住民が巻き込まれて死亡する事態となっている。

 だがウクライナに連邦制を導入させるため、同国東部の親露派を煽(あお)ってポロシェンコ政権を牽制(けんせい)してきたのはロシアだ。軍事衝突の責任の一端はロシアにあると言える。

 ロシアは3月、ウクライナ南部クリミア半島を併合した。ウクライナの反露感情が高まったのは当然だ。これによってウクライナの欧米志向はさらに強まった。

 ロシアが今後もウクライナへの影響力を確保するには、同国を連邦化して親露派住民の多い東部の自治権を大幅に拡大させることが望ましい。東部の混乱の背景には、こうしたロシアの思惑がある。

 もっとも、東部の各州ではロシアが思ったほど連邦制導入への支持は広がっていない。ウクライナでは特に若者らの間で、ウクライナ人としてのアイデンティティーが強まっている。親露派が住民投票を強行し、独立とロシア編入を一方的に宣言して一般住民と乖離(かいり)したことも誤算だった。ロシアの目論見(もくろみ)は狂いつつある。

 連邦制を導入するかどうかを決めるのはウクライナ国民だ。ロシアが親露派を利用して実現させるようなことがあってはならない。

 一部報道では、ロシア側が高性能武器を武装集団に提供していると言われる。武装集団は市街戦に持ち込む構えとみられており、抵抗は衰えることがない。政府の作戦は長期化する恐れが濃厚だ。

 ロシアは混乱収拾に向けた取り組みを強化する必要がある。ウクライナ軍と武装集団が一日も早く戦闘を中止して、和平交渉のテーブルに着くことを切望したい。

 ウクライナを訪れた岸田文雄外相はポロシェンコ大統領と会談した。この中で、ロシアによるクリミア併合について「力による現状変更は容認できない」と述べた上で、東部の戦闘の収束に向けて親露派との対話を促した。日本にはウクライナの安定化に向け、支援の強化が求められる。

 主権と領土を尊重せよ

 ロシアはウクライナの主権と領土の一体性を尊重しなければならない。親露派を煽ってウクライナの連邦化を図ることをやめ、クリミア併合も撤回すべきである。

(7月18日付社説)