制裁網一段と緩む危険性


東南ア連続開催の功罪

 米朝首脳会談は1回目がシンガポール、2回目がベトナムと連続で東南アジアでの開催となった。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に独裁体制を維持しながら経済発展を遂げた「モデル」を実際に見せることで、核放棄を促すのが米国の狙いだ。だが、北朝鮮にとって国際的な経済制裁網の抜け道として東南アジア諸国との関係を強化する機会になっており、米国の思惑通り進むか疑わしい状況だ。

 正恩氏は加わらなかったが、北朝鮮代表団の一部は27日、ベトナム北部の観光地ハロン湾や港湾都市ハイフォンを視察。トランプ米大統領は「核を持ち続けたら、経済発展できない」と、北朝鮮に核ではなく経済を選択するよう呼び掛けており、視察はベトナムの経済発展から学ぶ姿勢を示した形だ。

 ただ、経済的には格上のシンガポール、ベトナムから正恩氏が超VIP待遇を受けるのは、北朝鮮が核兵器を手に入れたからに他ならない。正恩氏は26日に特別列車でベトナム北部ランソン省のドンダン駅に到着した際、赤絨毯(じゅうたん)が敷かれ、熱烈な歓迎を受けたほか、ハノイ市内では至る所に北朝鮮国旗が掲げられている。核開発で東アジアの安定を脅かす正恩氏が、まるで平和の使者であるかのような扱いだ。

 シンガポール、ベトナム両国の過剰な厚遇は、正恩氏に核が持つ外交的パワーを実感させ、逆に核放棄を遠のかせている側面があることは否めない。

 一方、国際的な経済制裁を受ける北朝鮮にとって、東南アジアは制裁を迂回(うかい)する拠点として死活的に重要な地域だ。国連安保理北朝鮮制裁委員会の専門家パネル委員として、東南アジア諸国の制裁違反を現地で捜査した経験を持つ古川勝久氏は、北朝鮮のフロント企業やエージェントが暗躍する東南アジアには「北朝鮮がさまざまなものを調達し、資金洗浄する拠点が多数ある」と指摘する。

 正恩氏の異母兄・金正男氏が2017年2月に殺害された事件で、ベトナム人女性が使い捨て実行犯にされたことでベトナムとの関係が一時悪化したが、今回の正恩氏の公式訪問で両国の関係は完全回復するとみられる。

 東南アジア諸国はこれまでも北朝鮮に対する制裁違反が問題視されていたが、米朝首脳会談に乗じた正恩氏の「東南アジア外交」で制裁の抜け穴が一段と大きくなる可能性がある。

(ハノイ早川俊行)