ゲノム編集双子、生命軽んじる暴走を防げ


 中国・南方科技大の賀建奎副教授が昨年11月に「ゲノム編集」技術を使い、エイズウイルス(HIV)に感染しないよう受精卵を操作して双子を誕生させたと主張した問題に関し、地元広東省の調査チームは、賀氏が「個人の名誉と利益のため、国が禁止する生殖目的のゲノム編集を行った」と認定した。

 生命を軽んじる実験であり、科学者にあるまじき行為だ。

倫理審査文書を偽造

 調査チームによると、賀氏は2017年3月から18年11月にかけて、夫がHIVに感染した8組の夫婦(1組は途中で辞退)を募り実験を行った。このうち2人が妊娠し、1人が双子の女の子を出産。もう1人は妊娠中だという。賀氏は外国人を含むチームを作ったとしているが、関与した個人や組織、資金源などは明らかではない。

 ゲノム編集は、全遺伝情報を構成するDNA配列を狙った位置で切断し、遺伝子を欠失させたり、外から遺伝子を導入・置換したりする技術だ。遺伝子を効率よく改変できる一方、想定外の遺伝子を改変してしまう恐れがある。受精卵の段階での改変は、その影響が生まれる子供だけでなく、その子孫にまで及ぶ可能性がある。賀氏の行ったことは到底許容できるものではない。

 しかも、賀氏は実験に当たって倫理審査文書を偽造していたという。極めて悪質で、科学者としての良心のかけらも見られない。日本の研究者らからは「科学者の暴走だ」との批判の声も上がっている。

 調査チームは、賀氏と関係者を「法律規則に基づき厳正に処分する」と強調する一方、生まれた双子や実験参加者の医学観察を続ける方針を示した。賀氏らへの厳しい処罰は当然だが、実験によって生まれた子供たちに対しては十分なケアが求められる。

 妊娠、出産目的の受精卵の遺伝子改変について、欧州などでは法律で禁止している。日本はゲノム編集した受精卵を子宮に戻すことを、今年春から指針で禁じる方針だ。

 ただ指針に罰則はなく、禁止の対象も遺伝子治療を目的とした臨床研究や、生殖補助医療に役立つ基礎研究などで、医療行為に対する規制はない。法整備を含め、より厳しい規制の在り方を検討すべきではないか。

 ゲノム編集をめぐっては「生命の設計図」の書き換えが許されるのかという倫理的な問題を避けて通ることはできない。現在は簡便な技術が開発され、専門家でなくても遺伝子操作は可能だとも言われている。倫理的な問題が無視されれれば、親が望む特質を持った「デザイナーベビー」の誕生につながることも懸念される。

宗教の観点からも議論を

 その意味で今回の問題について、日本哲学会、日本倫理学会、日本宗教学会が昨年12月に「極めて重大な倫理的問題をはらんだ臨床研究や医療行為が合意形成のプロセスを経ずに行われることは決して許容できない」とする共同声明を発表したことは注目される。

 宗教などの観点からもゲノム編集に関して議論する必要があろう。