劉暁波氏重病、許されない中国の人権侵害


 2010年にノーベル平和賞を受賞した中国の反体制作家・劉暁波氏が、がん治療のために服役中の刑務所から病院に移された。中国当局は、病状が深刻になるまで放置し、劉氏が希望する国外での治療も拒否するなど、基本的人権を無視した対応に終始している。そもそも民主化を訴えた劉氏に重刑を科したことが許されない人権侵害であり、直ちに劉氏を解放しなければならない。

 国外での治療認めず

 劉氏は5月下旬、末期の肝臓がんと診断され、遼寧省瀋陽の病院に入院した。これまでも劉氏は体調不良を訴えていたが、刑務所外での治療は許されなかった。病院に移されたのは、刑務所内での医療施設では対応できなくなったためだ。

 中国では受刑者が病気になっても有効な治療を受けられず病状が悪化するのが常だと言われる。劉氏の場合も、意図的に放置したのだろう。極めて劣悪な人権状況だ。

 司法当局は、8人の専門家チームが家族の要望も聞いて治療を行っていると発表。医師が投薬治療について家族に説明する動画も公開するなど「適切な対応」をアピールしている。

 一方、劉氏は国外での治療を望んでいる。米国務省などは劉氏の釈放を求めているが、中国外務省の報道官は「いかなる国も中国の内政に口出しする権利はない」と応じた。中国は米国やドイツによる医師の派遣も拒否したという。民主主義国家には理解し難い反応だ。

 劉氏は08年に共産党一党独裁の廃止を求めた「08憲章」の主な起草者となった。憲章で三権分立や立憲民主制を求めたのは当然であり、中国政府は重く受け止めるべきだった。だが劉氏は拘束され、国家政権転覆扇動罪で懲役11年の判決を受けた。

 民主化と基本的人権の確立を目指す劉氏の非暴力闘争は国外で高く評価され、ノーベル平和賞を授与された。だが、中国は「服役中の犯罪者への授与は中国の司法制度を尊重していない」と反発。収監中の劉氏の授賞式出席を認めず、選考委員会があるノルウェーに対してサーモンの輸入規制などを強行した。

 選考委は当時、授賞理由の中で、世界2位の経済大国となる中国の地位には「より大きな責任が伴わなければならない」と指摘。憲法に規定された表現、報道、集会、結社、行進、デモの自由が「明らかに制限されている」と批判した。

 だが、中国の人権状況は12年の習近平政権発足後、一段と悪化している。15年7月には、中国各地で人権派弁護士や活動家ら約30人が一斉に拘束された。16年4月には中国国内で活動する海外NGOなどの管理強化を狙いとする法律を制定した。

 信頼失う共産党独裁

 中国への返還20周年を迎えた香港では、民主派が大規模デモを行い、劉氏についても行動の自由を認めるよう要求した。人権侵害を批判したものだが、香港の「高度な自治」を認めた「一国二制度」が中国によって形骸化することへの危機感を示したものとも言えよう。

 このまま共産党一党独裁体制が続けば、中国は国内外の信頼を失うばかりだ。