香港の民主主義を後退させるな


 香港政府トップの行政長官選挙をめぐり、中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は、2017年の次回選挙から一般有権者による直接選挙(普通選挙)を導入することを認めた。

 だが、その一方で、中国に好ましくない人物の立候補を厳しく制限することを決めた。このことは普通選挙の導入は形ばかりで、香港の民主化を大きく後退させることを意味する。

 全人代が民主派排除

 全人代の下した決定に、香港の民主派リーダーたちは「香港の民主主義で最も暗い日」「普通選挙とは到底言えない。全く受け入れられない」と強く反発し、行政長官官邸前の公園で反対デモを展開した。当然の反発と言えよう。

 「一国二制度」の下にある香港のトップが行政長官だ。香港はアヘン戦争を経て1842年に英国の植民地になり、1997年に中国に返還された。中国は香港を特別行政区とし、香港の憲法に当たる基本法を制定した。その結果、資本主義や独自通貨、言論の自由、司法の独立などが認められてきた。

 全人代常務委は香港の選挙制度改革の方向を決める権限を持つ。新しい仕組みでは、業界団体などから選んだ1200人の「指名委員会」が2~3人の立候補者を事前に選び、有権者が1人1票を投じる。だが、業界団体には中国の意向が強く働いている。このため、指名委が親中派で占められることは間違いなく、反中派や民主派の自由な立候補を事実上封じるものとなっている。

 身分、信仰、財産などによる選挙権や被選挙権の制限をしないはずの普通選挙とは程遠いものだ。民主派は行政長官選について「国際標準の普通選挙」を求めているが、中国政府は厳しくこの要求をはねつけている。

 中国の最高実力者、故鄧小平氏は「香港の行政長官は愛国(中国)愛港(香港)でなければならない」と主張してきた。全人代が民主派候補を排除する仕組みを決めたのも、鄧氏が示した原則を制度的に確立しようとする発想からきたものだが、民主主義を後退させることがあってはならない。

 中国外務省の秦剛報道局長は「香港の政治改革は中国の内政であり、いかなる外部勢力にも関与させない」と述べた。だが、中国が「一国二制度」をなし崩しにする政策を進めていく限り、国際社会の反発は強まる一方であろう。

 中国にとっても香港の価値は国際的な金融、物流センターであることで、その地位を支えているのが民主主義である。民主派の排除は中国自身の首を絞めることになろう。

 民主派団体は香港の金融街・中環(セントラル)地区を大群衆で占拠して抗議する街頭行動を近く実行する構えだ。ここには各国の銀行を含む大手金融機関が集まっており、占拠されれば金融センターとしての機能が麻痺する恐れがある。

 日本は反対の声上げよ

 国際社会がなすべきは、香港民主化の後退は許されないという強い姿勢を示すことだ。日本も今回の決定に反対の声を上げなければならない。

(9月5日付社説)