平成18年9月18日
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総括 小泉政治(上)
改革の本丸はまだ遠く…
憲法、教基法など重要案件先送り
小泉純一郎首相が五年五カ月の任期を終えて、異例の高支持率を維持したまま近く退陣する。戦後三番目となる長期政権で日本はどう変わり、どのような課題が残されたのか、総括してみる。
ぶっ壊したのは「田中派」自民党
小泉首相は今月四日、昨年、自民党を離党した郵政反対派議員の復党問題について、来年夏の参院選をにらんで、自民党の次期首脳部が「その人の選挙区事情、そして個人の考え方」に応じて、柔軟に対応すればいいとの考えを示した後、「郵政民営化だけが政治ではありませんからね」と言い切った。
小泉首相はちょうど一年前の総選挙では「郵政こそ改革の本丸」と叫んで、「郵政だけが争点でない」との反論を封じ込めた。その張本人が今は何のためらいもなく、こんな言葉をうそぶく。これこそ、異常なまでの固執とあっけらかんとした淡泊さが、政局の動きによってカメレオンのように変化する小泉政治の真骨頂だ。
「自民党をぶっ壊す」。こんな威勢のいい言葉で「失われた十年」の倦怠感に苛(さいな)まれる国民を刺激し、その追い風に乗って総理・総裁に就任したのは二〇〇一年四月。その小泉首相が最初に実行したのが、閣僚・党役員の「派閥順送り人事」の排除だった。
福田赳夫元首相の下で政治を学び、福田−安倍−森派に属しながらも一匹狼的な存在だった首相は、利権に手を出さず、あいさつ程度の贈り物や名刺すら受け取らない。そんな生粋の「変人」は、各派閥からの人事「推薦」の慣例を破壊し、それを最後まで貫いた。つまり、派閥政治を支える人事配分機能を麻痺させた。
また、金権政治の土台となる政官癒着、族議員の弊害に対しても、大ナタを振るった。田中角栄元首相に始まる最大派閥の田中−竹下−小渕−橋本派(現、津島派など)と深い関係を持つ道路公団を解体し、郵政関連法案の成立をごり押しした。
党内の反発に対しては、政局を「改革勢力」と「抵抗勢力」との対立に単純化し、国民に分かりやすい「ワンフレーズ」で二者択一を迫る手法で世論を味方に付けて、これを抑え込んだ。
「小泉君は自民党をつぶすと言ったが、つぶしたのは田中派自民党だ」。自民党の真っただ中にいて、飛び出した民主党の渡部恒三国対委員長は、小泉流政治「改革」の本質をこう指摘した。
事実、小泉政権の誕生まで政官界を牛耳っていた旧橋本派は現在、森派の後塵を拝し、総裁選に独自候補も立てられない凋落ぶりだ。昨年の解散・総選挙は、このような小泉「改革」を総仕上げする「権力闘争」の場であり、小泉型「劇場政治」のクライマックスでもあった。
しかし、その後の一年間の追加任期は、小泉政治の限界を露呈させた。官邸主導に文句をつける党内勢力がなくなり、与党が衆院で三分の二以上の議席を持ちながら、憲法改正の手続きを定める国民投票法案や教育基本法改正案、防衛庁を「省」に昇格する法案など、国のかたちにかかわる最重要法案はすべて、先送りされた。
また、国連安保理の常任理事国入り、中国・韓国との関係改善、北朝鮮による日本人拉致問題という外交懸案の解決は一向に進まず、目玉の構造改革も不良債権処理に続く財政再建、年金改革などにめどが付いていない。その上、「改革」に伴う格差の拡大によって、社会の底辺や地方に暗い影が差している。
このように多くの課題や懸案が積み残されたのは、後継首相と目する安倍晋三官房長官に「帝王学」を学ばせるため丸投げした結果なのか、それとも郵政「改革」で燃え尽きて、歴史観や国家観、理念・哲学の貧困をさらけ出した結果なのか。いずれにせよ、改革の真の本丸はまだ遠い。
(政治部・武田滋樹)