日露首脳会談、北方領土交渉は拙速を慎め


 安倍晋三首相はモスクワのクレムリン(大統領府)で、ロシアのプーチン大統領と会談した。懸案の北方領土問題について、共同経済活動の推進で一定の合意は得たものの、ロシアが領土返還に応じる兆しは見えない。拙速を慎み、腰を据えた交渉を進めるべきだ。

具体的な進展はなし

 首相がプーチン氏と会談するのは21回目。プーチン氏は今年3月の大統領選で4選を果たして新たに6年の任期を得ており、政権基盤も強い。

 一方、ロシアは米国との関係が悪化しているだけでなく欧州との関係も冷え込んでおり、日本との関係強化に前向きだ。領土交渉を進める環境が整ったように見えるが、今回の首脳会談では具体的な進展はなかった。

 北方四島での共同経済活動について両首脳は、海産物の共同養殖やクルーズ船を使った観光など重点5項目の具体化に向けた作業の加速で一致した。しかし、共同経済活動を行う上で最も重要なポイントは、双方の法的立場を害さない「特別な制度」の導入だ。

 ロシアの主権下で共同経済活動を行えば、日本は北方四島に対するロシアの主権を認めたことになる。だからこそ「特別な制度」が必要なのだが、ロシアにとっては主権の一部を手放す形にもなる。

 トップによる政治的決断が期待される場面だが、プーチン氏はそれを行わなかった。「特別な制度」に具体的な進展はなく、共同経済活動事業に関する民間調査団を新たに派遣することを決めただけにとどまった。

 プーチン氏は、首脳会談に先立ち行われた外国通信社代表団との会見で「われわれは相互に受け入れ可能な譲歩を見つけられるよう試みていく」と表明した。しかし、かつて旧ソ連は日ソ共同宣言に基づき2島を返還する準備ができていたが、日本が同宣言の履行を拒否したために交渉が停滞したとの持論を改めて展開。今後の具体的な解決策についても明言を避けた。

 首脳会談後の共同記者発表で、首相は「新しいアプローチの下、平和条約(締結)に向け、着実に前進する決意を2人で新たにした」と表明した。北方領土の返還には、さらに粘り強い交渉が必要だろう。功を焦れば、領土問題が置き去りにされ、経済的成果だけをロシアに持って行かれた過去を繰り返すことになる。

 ただ日本にとってロシアとの関係強化は、中国の膨張主義を抑え込む上で重要なポイントであることを忘れてはならない。

 中国はロシアとの戦略的パートナーシップ関係により、米国の影響を受ける海洋を経由せず、陸続きのシベリアの資源へのアクセスを確保した。さらに、沖縄県・尖閣諸島の領有権を主張する中国は、ロシアや韓国を巻き込み対日包囲網を形成しようと試みている。

 日本の安全を確保する上で、ロシアとのパイプを強化し、中露関係でロシアを「中立化」させることが必要だ。

関係強化で中国抑え込め

 わが国は北方領土の早期返還を目指すとともにロシアとの関係強化で中国の膨張主義を抑え込むことが重要である。