日朝関係、米韓との離間の狙いに警戒を


 安倍晋三首相と電話会談した韓国の文在寅大統領は、南北首脳会談で北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「いつでも日本と対話する用意がある」と述べたと報告した。

 首相が文大統領を通じて北朝鮮との対話の意思を伝え、金委員長が応じたものだ。

金委員長が対話の意向

 文大統領は南北会談の際、「安倍首相も北朝鮮と対話する意思があり、特に過去の清算を基盤に、日朝国交正常化を望んでいる」と伝達。また日本人拉致問題を提起し、被害者が日本に帰国できるよう最善を尽くすとする首相の意向も伝えた。金委員長が日本との対話に前向きな姿勢を示したことで、6月初旬までに想定される米朝首脳会談の後に日朝首脳会談が開かれる可能性もある。

 首相は拉致問題を最重要課題と位置付けてきた。この問題は北朝鮮と交渉しなければ前進しないことは確かだ。日朝交渉のチャンスを被害者全員の帰国と実行犯の引き渡しにつなげなければならない。

 しかし、北朝鮮が拉致問題に関する再調査の合意を履行していないことにも留意する必要があろう。北朝鮮は2014年5月の「ストックホルム合意」で被害者の再調査を日本に約束したが、その後に核実験や弾道ミサイル発射を繰り返したため、日本政府は新たな独自制裁を決定。北朝鮮は16年2月、再調査を中止して合意を一方的に破棄した。

 警戒しなければならないのは、金委員長が日本との対話の意向を示した狙いが、国連制裁の緩和や日本からの大規模な経済支援の獲得と考えられることだ。北朝鮮は1965年の日韓国交正常化に伴う経済支援などを参考に、日朝国交正常化が実現すれば100億~200億ドル(約1兆90億~2兆180億円)の経済支援が望めると計算しているという。北朝鮮の真意を慎重に見極めるべきだ。

 北朝鮮には、日米韓3カ国がそれぞれ重視する問題に取り組むことで歓心を買い、日米韓を離間しようとのもくろみもあろう。そのためにまず、米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射中止を決定。南北首脳会談では、韓国が望む南北協力の推進を約束した。日本に対しては、安倍政権が重視する拉致問題で前向きな動きを見せることで、米国からは引き出すことが難しい経済支援を取り付けようと狙っている。

 日米韓3カ国は北朝鮮の動きに惑わされず、緊密な連携を維持しなければならない。米朝首脳会談を、北朝鮮の核やICBMのほか、日本を射程に収める中・短距離弾道ミサイルの完全な廃棄に結び付ける必要がある。日米韓の協力によって、安倍政権の目指す核・ミサイル・拉致問題の包括的解決を実現することが求められる。

米朝会談の結果踏まえよ

 トランプ米大統領は拉致問題への関心も高い。最大限の圧力を背景に、北朝鮮で拘束されている米国人3人と共に全ての拉致被害者の解放を強く要求してほしい。

 日本は米朝首脳会談の結果を踏まえ、対北交渉を進めていくことが肝要だ。