新春政治座談会 「待ったなし!憲法改正」


新春政治座談会 待ったなし!憲法改正(上)

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新春政治座談会に出席した、左から細野豪志・希望の党憲法調査会長、中谷元・自民党憲法改正推進本部長代理、馬場伸幸・日本維新の会幹事長、本紙編集局長代理・政治部長の早川一郎(司会)

新春政治座談会に出席した、左から細野豪志・希望の党憲法調査会長、中谷元・自民党憲法改正推進本部長代理、馬場伸幸・日本維新の会幹事長、本紙編集局長代理・政治部長の早川一郎(司会)”

 日本国憲法施行から70年を迎えた昨年の国会は、衆参両院とも憲法改正勢力が3分の2を超え、改憲機運が高まっている。

 こうした中、自民党憲法改正推進本部長代理の中谷元氏、希望の党憲法調査会長の細野豪志氏、日本維新の会幹事長の馬場伸幸氏の3人の衆議院議員が「待ったなし!憲法改正」をテーマに論じ合った。

与野党で改憲発議目指せ

 中谷氏は「国民の大半は自衛隊も認められるべきと思っている」とし、9条は「最も早く改正すべきだ」と強調した。また、国民投票を実施する際には「国防や自衛隊については特に失敗は許されない」ので「政局とか政権の浮揚とか、人気投票に絡めては絶対にいけない」と語った。

 細野氏は、「本来の立憲主義は護憲とは違う。立憲主義の立場から言っても自衛隊、自衛権の表現をどうするかは工夫の余地はある」と指摘。党政調会長の長島昭久氏の提案を「一定の段階に達したところで議論を始めたい」と述べるとともに「安保法制が違憲か合憲かを議論すべき時期ではなく、むしろ今の安保法制の中でやれることは何なのかを国会としてしっかり議論することの方が重要だ」と強調した。また、馬場氏は9条に関し「緊迫した世界情勢の中では早急に議論していかねばならない」とするとともに「夢や希望が持てる日本をつくるためのツールとしての憲法を改正すべき時がやって来ている」と強調した。

緊迫の安保情勢、議論急げ

最も早く改正すべき9条 中谷
立憲主義は護憲とは違う 細野
夢持てる国造りのツール 馬場

昨年秋の衆院総選挙で、与党が3分の2の議席を獲得し野党の希望の党と日本維新を加えると、8割以上が改憲派になった。参院でもすでに3分の2を占め、憲法改正原案を発議し、国民投票にかける客観的環境は整っている。拙速は避けなければならないが、緊迫した国際情勢などからも待ったなしの状況にあるのではないか。

中谷元

中谷元(なかたに・げん) 昭和32年生まれ。元陸上自衛官。平成2年、衆院選初当選。防衛庁長官、防衛大臣などを歴任。憲法審査会幹事。高知県出身、当選10回。

 中谷 憲法は国の基本を定めたものだが、いまだに解釈があいまいなところや、変えなければならないままで残っている箇所が多い。これは、そもそも昭和20年、ポツダム宣言によって日本が統治された時に、占領軍の意向で憲法改正が決まり、その内容も26人のGHQチームがわずか10日間で作り上げたものだ。そのため、特にわが国の安全保障や自衛隊の規定などがあいまいなままだ。もう制定から70年になったので国民自らがしっかり考えてしかるべき憲法にしなければならない。

 私は2年前に平和安全法制法案の答弁者になったが、いまだに自衛隊が憲法違反だとか、国を守るために必要最小限の自衛の措置も憲法で認められないとか、戦争法案というレッテルを貼ったりとか、観念的に物事を言っている方がいる。しかし、国民の大半は国を守ることについてその必要性を感じ、自衛隊も認められるべきと思っているので、早期に憲法改正を実現する必要があると思う。

細野議員も昨年4月、改憲試案を公表したが。

細野豪志

細野豪志(ほその・ごうし) 昭和46年生まれ。平成12年、衆院選初当選。原発担当相、環境相、民主党幹事長、民進党代表代行などを歴任。憲法審査会委員。京都府出身、当選7回。

 細野 私は日本国憲法が70年以上にわたって定着してきたし果たしてきた役割は大きいと思う。しかし、公平に見て70年経(た)って時代に合わなくなっているところが出てきている。例えば、国と地方との関係だ。70年前は小さな村、町が乱立していた。その時代と比べ今は自治体が相当な力を持ってさまざまなことができるようになっているので、もっと地方自治を進めるべきだと思う。教育についても、ようやく義務教育を無償化するという段階だった戦後の状況からすると、特に幼児教育については当時とは格段の違いがある。それについても前向きに条文改正をすべきだと思う。

 自衛隊も、警察予備隊すらなかった時代の状況から大きく変わっている。実力部隊としての実態を備えている。立憲主義という言葉がよく使われるが、本来の立憲主義は護憲とは違う。立憲主義の立場から言っても自衛隊、自衛権の表現をどうするかは工夫の余地はあると思うが、憲法に位置付けることは検討すべきだ。

 長島政調会長の提案議論も

希望としては憲法改正問題について、民進党時代より伸び伸びと議論ができるようになったのではないか。党内論議で、憲法調査会長でもある細野議員の試案が叩(たた)き台になるのか。

 細野 あくまで試案なので党の案ではない。従って必ずしもこだわる必要はないと思うが、叩き台があった方が議論しやすいのは事実なので、そういう議論の進め方を今している。自衛権、自衛隊に関しては長島(昭久)提案がある。長島さんは政調会長なのでそこも一定の段階に達したところで議論を始めたい。

維新も改憲政党としてスタートしている。

馬場伸幸

馬場伸幸(ばば・のぶゆき) 昭和40年生まれ。中山太郎元外相・秘書、堺市議会議長などを経て、平成24年、衆院選初当選。大阪維新の会副代表などを歴任。大阪府出身、当選3回。

 馬場 憲法改正は、もう待ったなしの状態だと思う。私の師匠の中山太郎先生(元衆議院憲法調査会長)の言葉を借りれば、人間の体で言えば70歳になっているのにいまだに4歳、5歳の服を無理やり着ようとしているのが今の日本国憲法だ。憲法を読めば今の時代に合っていない項目も見受けられるし、国民の意識や社会情勢も戦後とは全く違う状態だ。国民投票法もあるので、安全保障、内政外政ともに夢や希望が持てる日本をつくるためのツールとしての憲法を改正すべき時がやって来ていると思う。

日本維新は昨年の総選挙で初めて公約に9条改正を入れた。国際安全保障環境の変化もあってのことか。

 馬場 今の時代に合っているか、国民のニーズに合っているかという物差しで見ている。先の参院選の時にわが党として、教育の無償化、統治機構の改革、憲法裁判所の設置の3項目の改正項目を掲げた。それから1年半ほど経ってまさしく今、9条をどうするかというのは緊迫した世界情勢の中では早急に議論をしていかねばならない。日本国民の生命と財産を守るためのツールなので真剣に議論をして早急に結論を出していかねばならないと思う。

 幹事懇を中心に提案を築く

自民党は昨年中に改憲案をまとめると言っていたが。

 中谷 6年前の野党の時に改正案を提示している。それから時間が経ったので、それは一つの考え方として多くの声を聞きながら提案を国会に出すべく今、議論を続けている。

 二つのハードルがある。一つは国会で発議をしなければならないこと。そのためには3分の2以上の賛同を得なければならないし、国論を二分しないために野党からも理解と納得をしていただける案を提示しなければならない。

 二つ目は、国民の過半数の賛同を得なければならないこと。欧州の国民投票の状況を視察してきた。国民投票の仕方については、きちんと整理して国民投票の内容が国民にしっかり伝わるようなやり方でないと、単なる政権の人気投票とか政争の具になってしまう。丁寧に時間をかけながら国会で議論をして国民に見える形で提案しなければならない。それができる案文を党内で4項目を中心に議論をしている最中だ。

12月20日発表の「論点とりまとめ」は、党改憲案に至らなかった。9条に関しては安倍首相の言う「自衛隊の明記」を加える案と、2項を削除する案が併記されたが。

 中谷 自民党は結党以来、60年以上憲法改正の議論をしている。具体案も2度、3度提案してきたが、平成24年に提案した「日本国憲法改正草案」は非常によく議論された内容になっているのでこれ以上のものをまとめることはできない。

 しかし、そのことを国民に分かってもらうために、まずは他党の皆さんとしっかり議論をした上で案を提示すべきなので、特にわれわれの案にこだわってはいない。9条は最も早く改正すべきだと思う。国会の憲法審査会で、特に幹事懇を中心に各党から意見を聞きながら提案すべき案を築き上げていけばいいのではないかと思う。

9条2項の戦力不保持と交戦権の否認を削除することが改憲派の有識者たちの一丁目一番地だ。そこを残したまま安倍首相の言うように自衛隊を書き込んでしまうと矛盾となり新たな議論を呼び覚ましてしまう懸念があるが。

 中谷 すでに自衛隊について戦力かどうかとか交戦権について政府はきちんと答弁している。ここで書かれている戦力は自衛のための必要最小限度を超えるようなものを呼ぶ。わが国を防衛するための必要最小限度の実力組織というものは戦力にあたらない。

 また、交戦権も他国を占領したり、臨検を行ったりというような武力行使という意味であって、自衛権については戦争自体が違法なので交戦権とは言わないと政府は答弁している。

そこが国民には分かりにくいところなので国民が受け入れやすい形にすることが望まれている。希望の党政調会長の長島議員は「中央公論」(12月号)に9条改正試案を発表し、自衛隊については書かずに、自衛権について安保関連法を踏まえながらの案文を示しているが、この試案に対する評価は。

 細野 長島提案は一度、党内でしっかりと議論をしたいと思う。これは9条の3項になるものだ。それも一つの考え方だろうし、9条の2という形で新たな条文を立てるという考え方もある。自衛権を書くのか、自衛隊を書くのかというのも一つのやり方としてある。長島さんのは自衛権を書くという考え方だ。

 悩ましいのは2年前の安保法制の議論をもう一度呼び起こすことになることだ。しかし私は今、安保法制が違憲か合憲かを議論すべき時期ではなく、むしろ今の安保法制の中でやれることは何なのかを国会としてしっかり議論することの方が重要だと思っている。

 中谷先生が言われたように幅広い政党の合意を得るということになると、自衛権を持ち出すといろいろな議論が派生することは間違いない。それであれば自衛隊を書くのも一つの考え方だ。自民党の中でもそういう議論が進んでいると承知しているが書き方を工夫しないと国民の理解を得られないと思う。

 こうした条文が発議されたが国民に否決された、ということはあってはならないので、国民世論を見極めながら国民が受け入れられる条文を考えていかねばならないと思う。

国民の理解得られる条文に

維新の党では先に開かれた党「憲法改正本部会議」で松井一郎代表はじめ自衛隊の明記に前向きな意見が出たようだ。この点はどう書き込むか。

 馬場 党としては議論の最中だ。憲法は物事を動かしていく国の礎であり、法律を作るツールであるという位置付けから考えると、憲法にあまり事細かに書くというのはどうなのか、という意見が党内に多い。細野さんが言われたように、国民投票になったときに通るかどうかということをシミュレーションしながらやらないといけない。空理空論では大きな禍根を残すことになる。その観点からすると、自衛隊が違憲であると思っている国民はほとんどいないと思う。その辺は表現の仕方を、国民の理解を得られるような賛成の票を投じていただけるような案に憲法審査会などで議論していくことが必要だ。

 私権制限必要なら踏み込め

 中谷 自衛隊が昭和29年に創立された時、政府は、自衛のための任務を有し、また必要相当な範囲の実力部隊は憲法に違反しないと説明した。砂川判決においても「自国の平和と安全を維持するためその存立を全うするのに必要な自衛のための措置をとることは国家固有の権能として当然のことである」という原理は変わっていない。その結果、自衛隊は国民の9割が認める存在になっている。にもかかわらず、いまだに憲法違反だという憲法学者、また政党がいるということでは、厳しい中で任務を達成している自衛隊に対し非常に無責任であるし、そういった解釈の余地をなくしてきちんと憲法に位置付けられるべきだ。それが国民の皆さんがご理解いただける内容で提案できればいいのではないかと思う。

緊急事態条項の盛り込みについても喫緊の課題だ。細野議員は、3・11東日本大震災の少し後、環境大臣だったことで、この必要性を強く感じているのでは。

 細野 あの時は戦後の緊急事態の中でも最も厳しい局面だった。官邸の中で憲法さらには法律の制約がどこにあるのか相当考えた。率直に言って、緊急事態における法制はここ十数年でかなり整った。戦争を想定した有事法制もできた。また、災害対策基本法や原災法(原子力災害対策特別措置法)もかなり緊急事態に対応できるようになっている。そのベースは憲法で言うと22条と29条だ。22条は居住、移転、職業の選択の自由だが、この中には「公共の福祉」の制約が明確に書かれている。29条の財産権についても「公共の福祉」による制約が書かれている。つまり、例えば自衛官とか医療関係者が緊急事態において職業選択の自由を行使して最前線から離脱をすることは緊急事態においては非常にまずいわけで、そういったことについて制約することはできる。また例えば収用や避難を要請するケース。これも財産権に当たるケースがあるがそういったことについて憲法上、許容している。

 あと議論が必要なのは、法律によってあらゆる事態に対応できるようになっているのかだ。私の経験したところで言うと、財産権、職業選択の自由について、個別にこういう行為が憲法上規制されているのでできないということは、政府が国民の自由を制限するケースでは少なくとも今の段階においてはないのではないか。

 憲法審査会で中谷さんらといろいろ議論したが、ここは具体的にどういうことがあるのかを少し詰めた議論が必要だろう。一方で、非常に必要性を感じたのは、3・11の後の4月に岩手、福島、宮城で県会議員選挙が予定されていた時のことだ。あれはやはり無理だった。そこで国会で議論して半年先延ばしをして秋に行った。あの判断は適切だったと思う。

 ただ県会議員選挙だったから先延ばしできたが、仮に衆議院または参議院が任期が来ていた場合は憲法上、やらざるを得ない。そうなると、大混乱の中でやるか、もしくは先延ばしをすると違憲の疑いのある議会が動くことになり、これは非常にまずい。それについてはしっかり議論しておいた方がいいと思う。

 私権制限は緊急事態においては必要だ。それを憲法に規定することが必要ならば慎重に議論して踏み込む必要があると思う。

維新はどうか。

 馬場 うちは細野さんの言われたスタンスに近い。災害とかテロが起きた場合の法律はいろいろある。憲法を変えなければできないことは何なのか、については議論の道半ばだ。それがあるのなら憲法に書き込むことに反対ではない。議員の身分については今おっしゃった通りできちっと手当てをしなければならないと思う。

 解散中の対応早急に議論を

自民党の日本国憲法改正草案は、9章に「緊急事態」が出てくる。大規模自然災害とともに外部からの武力侵攻などに備えての緊急事態が書き込まれているが。

 中谷 外部からの武力侵攻、内乱などによる社会秩序の混乱、そして地震などの大規模自然災害その他の緊急事態ということで、想定外ということもある。災害においても例えば、地方自治体が全滅したり市長さんや幹部のほとんどが行方不明になったりとか、また、協力しない市長がいるとか。現実に派遣された隊員が現場で判断に迷うとか指示を待っているという事態があれば大事な人命を救えない。そういった地方自治体が機能していない場合などは国が代わって政令などで対応することはあり得るのではないか。この点は、細野議員と議論をしたが、共通の最大公約数で提案しなければならないのでしっかりと詰めていきたい。

 ただ、北朝鮮に対する制裁圧力が強くなってくると、北朝鮮が暴発することもあり得る。現在、北部の海域で漂流した漁船がたくさん流れ着いたりしているが、思わぬことが発生することもあろう。そのため、防衛出動にしろ治安出動にしろ国会の議決が必要であって例えば解散中にこういった事態が発生したときは衆議院の議決が得られない。そういう意味で議員が欠けたときの対応などは早急にしておかねばならない。緊急事態の在り方について他党としっかりと議論をしていきたい。

この点をしっかりと深めていくという立場では一致したようだが。

 細野 馬場さんも私と同じ立場だと思うが、憲法上、きちっと緊急事態について書く必要があればやるということでいいが、自民党の提案はまだ漠然としている。具体的に何ができ、どこに制約があるのかあいまいな部分がある。そこを詰めていかないとなかなか合意事項になりにくい面はあると思う。

大規模自然災害については災害対策基本法にしっかりと書き込まれているので、大規模自然災害と外部からの武力侵攻・内乱を切り離して緊急事態を考えていくというのはどうか。

 細野 事態の種類がかなり違う。国民保護法を議論した時にかなりやった。例えば指定公共機関でさまざまな情報を国民に流すとか。報道の自由との関係でいうと微妙な問題があるのでやはり必要だろうということで入っている。だから、現行憲法上できるできないの判断と個別法の中に何が入っているのかを整理し、その上で議論を深めた方がいいと思う。

 中谷 提案の中に国会の承認を入れてあるし、100日を超える場合は一度止めなければならないとかがある。やはり国会におけるコントロールを盛り込んでいるので、あくまで行政の対応ができない場合に限ってという観点で提案をしている。

 細野 それは非常に重要な視点だ。仮に選挙を先延ばしにする場合も議会としての判断をしていくことが重要だ。しかもその延長の期間は極めて限定的である必要があるので、いかなる事態になっても憲法違反で超法規的な対応をしないということをあらかじめ憲法にどう書くか、そして法律にどう書くかの議論が必要だ。