日露首脳会談、領土問題置き去りを懸念


 安倍晋三首相は来日したロシアのプーチン大統領と会談し、領土問題を含む平和条約締結に向け、日露双方の法的立場を害さない形で、北方四島での共同経済活動に関する協議を始めることで合意した。

 だが、4島の帰属問題では実質的な進展はなかったとみられる。経済協力のみが進んで領土問題が置き去りにされないか懸念される。

 4島経済協力協議で合意

 両首脳が発表したプレス向け声明は、択捉、国後、色丹、歯舞4島での共同経済活動に関する協議を開始することが「平和条約締結に向けて重要な一歩になり得るとの相互理解に達した」と明記。共同経済活動の実施は「平和条約に関する両国の立場を害さない」ことに立脚するとした。

 活動の制度設計は今後の協議に委ねられる。しかし実現した場合でも、領土問題解決につながるかは不透明だ。

 安倍首相は、領土問題の前進には「首脳間の信頼関係が不可欠」と見定め、プーチン氏と通算15回にわたる会談を重ねてきた。今回、自身の地元である山口県長門市にプーチン氏を招いたことは、首相の決意と意気込みを示すものだ。

 一方、プーチン氏は山口会談を前に強硬姿勢を鮮明にした。一部日本メディアのインタビューでは「ロシアには領土問題はない」と冷戦期を思わせる見解を表明。首相はプーチン氏との会談後、領土問題について「解決にはまだまだ困難な道が続く」と認めざるを得なかった。

 ロシア軍は先月、国後と択捉に最新鋭の地対艦ミサイルを配備したことを明らかにした。プーチン氏はアジア太平洋地域への関与強化を表明しており、ロシアにとって太平洋への出入り口となる北方領土の重要性は増している。

 しかし北方領土は日本固有の領土であり、ロシアが現在、不法占拠していることは紛れもない事実だ。プーチン氏は今回の会談後に「共同経済活動を実現することで平和条約締結に向けた信頼が醸成される」と述べたが、経済協力のみを進め、領土問題をうやむやにすることは許されない。

 日本側でも会談前に「2島プラスアルファ」を唱える向きがあった。不法占拠を認めるような発言は、ロシアを付け上がらせるだけだろう。

 ロシアを強気にさせている要因の一つは、トランプ次期米大統領の存在だ。トランプ氏はロシアとの関係改善に前向きとされる。米露関係が修復に向かえば、ロシアが対日関係に配慮する必要はなくなるだろう。

 北方領土返還に向けた交渉には困難が伴うが、日本は粘り強く4島返還を求めていかなければならない。

 対中牽制での協力も

 一方、ロシア極東では中国の経済的な影響力が増大し、ロシアにとっては安全保障面の潜在的脅威も高まっている。中国は沖縄県・尖閣諸島の領有権を一方的に主張するなど、日本近海でも強引な海洋進出を行っている。領土問題で譲歩することは決してできないが、中国を牽制(けんせい)する観点で日本はロシアと協力することも求められる。