首相とトランプ氏、友好を同盟強化につなげよ


 安倍晋三首相は米ニューヨークでトランプ次期大統領と会談を行った。次期米大統領と日本首相との会談は異例である。

 国際社会を安定させる上で各国の首脳同士の個人的信頼関係は欠かせない。その意味で、首相とトランプ氏が良好な関係を築けたことは評価できる。 

日本重視の姿勢示す

 トランプ・タワーにあるトランプ氏の自宅で行われた会談は、通訳を交えて予定時間の倍に当たる約1時間半に及んだ。トランプ氏の娘イバンカ氏や夫のジャレッド・クシュナー氏、マイケル・フリン元国防情報局長官らが立ち会った。

 フリン氏は国家安全保障担当の大統領補佐官への就任が決まった。クシュナー氏はトランプ氏の側近中の側近とされ、イバンカ氏は駐日大使に指名されるとの話もある。

 トランプ氏は大統領選後、トランプ・タワーで数多くの各国首脳と電話会談するほか、政権移行チームや次期政権の幹部候補と面談を重ねている。実際に外国首脳と対面して直接会談するのは首相が最初だ。日本重視の姿勢を示したと言えよう。

 今回の会談は日本だけでなく外国メディアの関心も集めた。日本としては、安倍外交の積極性を世界にアピールし、極めて早い段階でトランプ氏とのチャンネルを作れた意義は大きい。

 首相は次期大統領との非公式会談ということで内容を明らかにしなかったが、「ともに信頼関係を築いていくことができると確信を持てる会談だった」と述べた。トランプ氏は会談後、首相をトランプ・タワーの下まで見送りに出るなど友好関係の始まりを印象付けた。

 しかしトランプ氏が現実路線にかじを切り、これまでの強硬姿勢を改めるかどうかは判然としない。

 トランプ氏は選挙戦で、就任初日に環太平洋連携協定(TPP)から離脱すると宣言。日本に在日米軍駐留経費の全額負担を要求し、応じなければ米軍撤退も検討すると牽制(けんせい)してきた。撤退後の力の空白を埋めるため、一時は日本が核武装しても構わないとすら主張した。

 こうした発言は選挙戦術だったのか、本気で言っていたのか、いまだに見極めがつかない。今回の会談で、首相がどの程度、発言の真意を把握できたかも分からないままだ。日本政府が会談の詳細について話し合っていた人物が、直前に更迭されたとも伝えられている。

 強引な海洋進出を行う中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮の脅威が高まる中、トランプ氏の言動によって日米関係の行方への懸念は高まっている。トランプ氏には、こうした不安を払拭(ふっしょく)する外交政策を求めたい。

重要性について説明を

 菅義偉官房長官は、今回の会談について「首脳間の強い信頼関係を築いていく上で、大きな一歩を踏み出す素晴らしい会談になった」と指摘。「地域と世界の平和と繁栄のため、日米同盟を一層深化、発展させていきたい」と述べた。

 首相とトランプ氏は再会談することで一致した。日米同盟の重要性について、首相はトランプ氏に説明し、共通認識を持つことが求められる。