御在位30年、困難な時も国民と苦楽共に


 きょう政府主催で天皇陛下の御在位30年記念式典が開かれる。天皇陛下は1月7日に御即位から30年を迎えられた。

 御在位を祝うとともに、平和と国の繁栄、国民の幸福を祈られながら、象徴としてのお務めを果たしてこられた陛下に感謝を捧(ささ)げたい。

大規模な自然災害が多発

 平成の御代は、300万の犠牲者を出した大戦、復興と経済大国としての再生といった昭和のような激動はなかったが、決して平坦な30年ではなかった。戦争こそなかったものの、オウム真理教による無差別テロなど、これまでにない事件も起きた。何より、阪神淡路大震災、東日本大震災、そして近年頻発する洪水など大規模な自然災害が多発した。

 陛下は災害が起こるたびに被災地を訪問され、人々を慰め、勇気づけてこられた。国民と苦楽を共にするというのが、わが国皇室の伝統であり、とくに激動の時代を生きられた昭和天皇が強く示された伝統であった。

 昭和天皇から皇位を受け継がれた今上陛下は、象徴としてのお務めに真摯(しんし)に向き合われ、被災者を慰められる時も膝をつかれるなどの御配慮を示されて国民に寄り添われる御姿勢をお見せになった。

 とりわけ印象深いのは東日本大震災の時であった。かつてない地震、津波で多くの犠牲者を出し、東京電力福島第1原発の事故が追い打ちをかけた。肉親や友人を失った人はもちろん、すべての日本人が打ちのめされるような自然災害であった。

 被災地救援の陣頭指揮を執る首相が語る言葉も、なぜか頼りなく感じられるような時、陛下の御発意で、陛下御自身が国民を慰め、励まされるビデオメッセージを語られた。

 この時ほど、国民が自分たちの心の深いところにある皇室との繋(つな)がりを感じた時はなかったのではないか。復興の合言葉は「絆」であった。困難な状況ゆえに国民同士の絆が何より心強いことを再認識したが、われわれと皇室との絆を再認識した時でもあった。

 先の大戦の激戦地を訪ねられる慰霊の旅で、深い黙祷(もくとう)を捧げられるお姿も多くの国民の胸に刻まれた。

 陛下が即位された時期は東西冷戦の終結とほぼ重なる。冷戦終結で安定した国際社会が生まれるかと期待されたが、宗教、民族の対立が顕在化し、テロや紛争が頻発するようになった。

 幸い日本が戦争に巻き込まれることはなかったが、その影響は陰に陽に及び、国の安全や将来に漠然とした不安を人々は抱くようになった。価値相対主義の広がりは、さまざまな社会現象となって表れるに至った。

 こうした中、陛下は皇室を時代の変化に適合される柔軟さも示された。一方、伝統の継承にも力を注いでこられた。こうした陛下の御姿勢は、われわれが時代の変化に対処する上で貴重な示唆を与えてくれる。

平和を祈られた陛下

 さまざまな出来事のあった30年。日本が先進国としての経済力、文化力、生活水準を維持し得た背景に、平和と国民の幸を願われる陛下のお祈りがあったことを忘れてはならない。