世界日報 Web版

稀勢の里引退、ファンを魅了した真っ向勝負


 大相撲の横綱稀勢の里が引退した。横綱在位が12場所の短命で終わったことは残念だ。活躍する姿をもっと見たかった。

19年ぶりの日本出身横綱

 昨年九州場所後に横綱審議委員会から「激励」の決議を受け、初場所で進退を懸けたが初日から3連敗。昨年秋場所千秋楽からは8連敗(不戦敗を除く)となっていた。引退はやむを得ない決断だと言えよう。

 稀勢の里は17歳9カ月で新十両、18歳3カ月で新入幕と、ともに貴花田(後の横綱貴乃花)に次ぐ年少で昇進するなど、早くから大器として期待を集めた。2011年九州場所後に大関に昇進してからはここ一番で勝てずに苦しんだが、初優勝した17年初場所後、ついに横綱に昇進。1998年夏場所後の3代目若乃花以来、19年ぶりの日本出身横綱誕生だった。

 続く2017年春場所では2度目の優勝を飾ったが、左胸などに大けがを負った。このけがを完治できなかったことが、結果的に力士生命を縮めることになった。稀勢の里は引退会見で「けがをする前の自分に戻ることはできなかった」と涙ながらに無念の思いを口にした。

 幕内優勝回数は2回。横綱在位中の12場所で皆勤できたのは、17年春場所と18年秋場所だけで、残りの10場所は全休か途中休場で終わった。数字を見れば、横綱として大成したとは言えない。

 だが、土俵上で真っ向勝負を貫く姿はファンに強烈な印象を与えた。横綱白鵬との対決も忘れ難い。10年九州場所2日目、当時前頭筆頭だった稀勢の里は終始攻め、寄り切りで白鵬の連勝記録を63で止める殊勲の金星を上げた。稀勢の里の引退について尋ねられた白鵬は「あの黒星があったから、ここまで頑張れた」と話している。

 初優勝した17年初場所の千秋楽では、一気に土俵際まで寄る厳しい攻めを見せた白鵬に対し、こらえた稀勢の里が逆転のすくい投げで勝利した。優勝インタビューでは「誰かに支えられた気がした」と語った。引退会見でも、最も印象深かった一番として挙げている。

 次の17年春場所千秋楽では、2敗の稀勢の里が1敗の大関照ノ富士に本割、優勝決定戦で連勝して逆転優勝。13日目に負傷して出場さえ危ぶまれた中で「奇跡」とも言われた。久しぶりに誕生した日本出身横綱だということを抜きにしても、ファンを魅了してやまない力士だったと言えよう。

 稀勢の里は「自分の土俵人生において一片の悔いもない」と振り返った。17年間の力士生活で誇れるものを聞かれると「一生懸命、相撲を取ったこと。ただそれだけ」と言い切った。

指導者として貢献を

 今後は年寄「荒磯」として後進を指導する。「一生懸命に相撲を取る、けがに強い力士を育てていきたい」と語った。

 稀勢の里を成長させたのは、先代師匠の故鳴戸親方(元横綱隆の里)が課した猛稽古だった。「稽古場が僕を強くしてくれた。次世代の力士に、稽古場は大事だと教えていきたい」。早過ぎる引退は惜しまれるが、これからは指導者として相撲界に大きく貢献してほしい。