オウム裁判終結、破防法適用せず禍根を残す


 最高裁は地下鉄サリン事件で散布役を送迎していた元信者の上告を棄却することを決め、これでオウム真理教が引き起こした一連の事件の裁判がすべて終結した。だが、元代表松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚ら13人の死刑執行が残されている。

「麻原回帰」の動きも

 法の執行を厳正に行うべきであることは言うまでもない。オウム教団による13事件で27人が命を奪われ、6000人が負傷した。今なお多くの人々が後遺症に苦しんでいる。犠牲者の遺族の心痛はいかばかりか。史上最悪のオウム事件の無惨さを改めて心に刻みたい。

 刑事訴訟法は死刑確定から6カ月以内に法相が執行を命令するように定めている。ただ共犯者が逃亡中だったり、証人尋問を受ける可能性のある裁判が続いていたりすると刑は執行されない。再審請求が出されている場合は法務当局が刑執行を判断する。死刑廃止を求める一部弁護士が、執行を止めるために再審請求を繰り返すケースがあるからだ。

 だが裁判が終結したことで、こうした刑執行の障害は取り除かれた。松本死刑囚は一審から不規則な言動を繰り返し、弁護団は訴訟能力がないとして公判停止を求めたが、最高裁は法廷での状態を詐病と断じている。まずは首謀者である松本死刑囚から刑を執行すべきだ。他の死刑囚についてもためらう理由はない。

 かつて幼女連続殺人犯の死刑執行を命じた鳩山邦夫法相(当時)が朝日新聞から「死に神」呼ばわりされたことがある。日弁連は死刑廃止を主張している。だが、死刑制度は被害者遺族の立場や国民感情、凶悪犯罪の抑止、治安維持などの視点からその妥当性が国民に認められている。犠牲者遺族は「(松本死刑囚の)刑が執行されておらず、これで区切りではない」と言明している。

 これに対して法務省には「執行命令を下した法相が報復される可能性があるので、長期間の身辺警護が必要だ」との見方があるという。こうした危惧を抱かせるのはオウム教団への対応が甘過ぎたからだ。

 教団は今も「アレフ」などと名称を変えて存続し、各地に拠点を設け活動している。一部に「麻原回帰」が見られ、殺人を正当化した「ポア」の教義を放棄したのかも不透明だ。米国は「アレフ」になっても本質は変わっていないとして「国際テロ集団」と規定し、入国を許さないなど厳しく監視している。

 海外では組織的に壊滅させてテロ再発の防止に当たるのが常識だが、わが国は破壊活動防止法を適用せず、団体規制法をつくって「観察処分」としているだけだ。左派メディアの破防法批判の影響を受け、公安審査委員会が政府の適用請求を棄却したためだ。そのツケがいま回ってきている。

政府は毅然と死刑執行を

 テロ対策をめぐっては特定秘密保護法やテロ等準備罪が整備されたが、これらにも左派メディアはことごとく反対してきた。死刑廃止論を含めて治安を脅かす左派言論に惑わされず、政府は毅然(きぜん)とテロ対策、死刑執行に当たるべきだ。