犯罪白書、家族と地域の「絆」で再犯防げ


 わが国での犯罪は着実に減っており、官民挙げての「治安神話の復活」の取り組みが奏功している。その一方で検挙者のうちほぼ半数が再犯者で、とりわけ高齢者の犯罪が増加し再犯率も高い――。法務省が昨年の犯罪件数などをまとめた「犯罪白書」は、そんな傾向を示した。

検挙者の2割が高齢者

 それによると、刑法犯の認知件数は約99万6000件で、戦後初めて100万件を下回り、検挙人数も約22万6000人の戦後最少を更新。だが、再犯者率が20年連続で上昇し、過去最悪の48・7%に上った。65歳以上の高齢者が初めて検挙者の2割を上回り、刑務所への再入者は7割に及んだ。

 ここから治安向上への課題として再犯防止策と高齢者対策の2点が浮き彫りになっている。これは近年、顕著な傾向だ。それを踏まえて白書はこれまでにも再犯防止策を示唆してきた。

 2009年版白書は、窃盗罪で2回以上の受刑者のうち、犯行当時、無職だったのが7割以上を占めたことから、「安定した生活が改善更生の前提」とした。経済面で安定させることが、再犯を防ぐ方策として有効なのは今も変わらない。

 だが、高齢犯罪者が増加し、就労確保を通じた従来の再犯防止策だけでは立ち直りの支援が難しくなってきた。そこで14年版白書は万引き(窃盗)の再犯率を年代別に分析し、最も高かった65歳以上の女性について近親者の病気や死去、家族との疎遠などの家族問題が再犯の背景にあるとして、経済面よりも「家族の絆」喪失が再犯率を高めているとの見方を示した。

 高齢者の独り暮らしが増加し、孤独感から心を病み、万引きを繰り返すといったケースもあり、高齢になるほど、刑務所に早期に再入所する傾向が強い。今回の白書でも高齢者の再入者が7割に上り、中でも入所6回目以上が4割近くを占めた。

 「家族の絆」は従来、再犯防止の決め手だったことを改めて想起しておきたい。09年版白書は家族が同居していた場合、再犯率が半減するとし、11年版白書は少年院に家族が面会に来た回数が2回以上では再犯率が下がったとしている。

 身寄りがない場合、地域での「絆」が重要になる。出所後の住まいや就労などの受け入れ先の確保が課題になるからで、福祉と連携した地域での社会復帰支援策が不可欠だ。国だけでなく、自治体も自らの問題として取り組む必要がある。

 医療や介護では予防や生活支援を含めて「地域包括ケアシステム」の構築を目指しているが、犯罪防止の視点も加味すべきだ。高齢者は「振り込め詐欺」などで犯罪被害者になるケースも少なくないからだ。

見守りや生活支援を

 今回の白書は高齢者による「暴行・傷害」が急増しているとしている。認知症との関わりがないのか気掛かりだ。いずれにしても見守りや生活支援は被害・加害双方の防止につながる。

 神奈川県座間市での連続殺人事件では人との「絆」の希薄さが指摘されている。家族と地域の「絆」を再考する。そこから一層の「安全な暮らし」を取り戻せるはずだ。