受動喫煙防止条例、室内禁煙を都から全国に


 自宅や自家用車内で子供を受動喫煙から守ることなどを保護者の努力義務とする条例が、東京都議会で可決、成立した。私的な空間を含めて、受動喫煙防止を求める条例制定は全国で初めて。

 家庭での喫煙を条例で規制することには反対の声もあった。しかし、子供が健康に育つ環境を与えることは保護者はもとより社会の責務である。

家庭など私的空間も

 その一方で、自動車内のような密室で、子供をたばこの煙に曝(さら)すことは虐待にも等しい行為であり、悪質である。これまでこうした大人の行為を放置してきたことの方が異常であろう。都の条例に罰則はないが、子供の受動喫煙の危険性に対する認識が高まるなど、啓発の意義があり、制定を評価したい。

  非喫煙者が他人のたばこの煙を吸ってしまう受動喫煙が、健康を害することは科学的に明らかになっている。肺がん、脳卒中になるリスクを1・3倍に高めるほか、乳幼児突然死症候群は4・7倍になる。そして、こうした病気による年間死亡者数は1万5000人に達する。その一方で、職場で3割、飲食店になると4割強の人が受動喫煙に曝されたことを示す国の調査がある。

 条例は、18歳未満を受動喫煙から守ることを都民の責務とするとともに、保護者らに対しては、子供のいる自宅や車の中で喫煙しない、受動喫煙防止措置の講じられていない施設に子供を立ち入らせないことなどを求めている。さらには、病院などの周辺で子供の受動喫煙を防止することも努力義務とした。

 だが、世界の潮流はすでに「スモークフリー(たばこのない)社会」の実現であり、原則室内禁煙にする国が増えている。医療施設、学校、飲食店など公共の場所すべてで室内全面禁煙とする法律を施行している国は約50カ国にも及ぶ。その狙いは受動喫煙防止だけでなく、喫煙者そのものを減らすことだ。

 わが国の喫煙率は今年5月現在18・2%。 「12・2%」を掲げる政府目標とはまだ開きがあり、禁煙推進策の立ち遅れが目立つ。罰則付き条例を制定し、屋内を禁煙・分煙にしているのは、神奈川と兵庫の両県だけ。先の国会では、厚生労働省が、受動喫煙防止策を強化する健康増進法改正案を提出する予定だったが、客が減ることを懸念する飲食店などに配慮する政党の反対で、先送りとなった。

 2020年に五輪・パラリンピックを控える都にとって、今回の条例制定に続いて、原則屋内禁煙とする罰則付き条例の制定は“国際公約”と言っていい。国際オリンピック委員会(IOC)が、世界保健機関(WHO)と協定を結んで「たばこのない五輪」の実現を目指しているからだ。近年行われた開催都市は原則屋内禁煙だった。

期待される波及効果

 都が屋内禁煙とする条例を制定することは国や他の自治体への波及効果も期待できる。かつて石原慎太郎知事の時代に、都は日本初の条例によってディーゼル車走行規制を実現。それが首都圏から全国に広がるという実績がある。都からスモークフリーを全国に広げてほしい。