日本の防衛、多極化時代に必要な自助努力


 今年は内外とも波乱の多い年になるとの見方が多い。妥当だが、その原因として米国でのトランプ新政権誕生、英国の欧州連合(EU)離脱、中露両国の露骨な領土拡張の動き、北朝鮮の核戦力の向上などが挙げられている。

 だが、根源的な要因が無視されており、それ故に国際社会、中でも北東アジアで生起する事態の重大性が十分に認識されていない。

冷戦後も続く対米依存

 冷戦が終結した直後、国際情勢について世界的に楽観論が広がる中で「冷戦後は混迷し、より厳しくなる」との見解を表明した炯眼の士がいた。

 冷戦時代には、超大国米ソ両国の核抑止戦略が功を奏し、大国間の戦争は影を潜めていた。その他の中小国家間の戦争も、米ソの利害が一致すれば収拾できた。

 ところが、冷戦の終結によってソ連は崩壊し、唯一の超大国と言われた米国の国力も低下した。そのため、米国は国際社会の秩序維持の責任を担う意思をなくしつつある。オバマ政権の「世界の警察の役割放棄」は、このような事態を受けたものである。

 冷戦下で機能不全に陥っていた国連は、冷戦終結で国際社会の平和維持という本来の役割を果たすことが期待された。しかし、それは幻想だった。国連は空疎な核兵器撤廃に興味を示すが、中国の質量ともの核戦力増強や北朝鮮の核武装の動きは見て見ぬふりをする。

 多極化時代の到来は、決して平和の訪れを意味しない。多極化した国際社会では、それぞれの国家が自己の価値観に基づいて国益を追求するのが常態である。価値観や国益の違いで、冷戦下の同盟国との利害も対立する時代になっている。

 当然のことながら、米国も他国と同様、自己の国益を踏まえて行動している。トランプ新大統領の「米国第一主義」もこの流れの中にある。欧州主要諸国は冷戦終結後、いち早く多極化時代の国際社会の本質を理解し、新時代に対応した軍事力整備に努めている。

 それにもかかわらず、わが国は冷戦下と同様に、国家の安全の主要分野を米国に全面的に委ねており、依然として「冷戦当時の温室」から出ようとしていない。

 中国や北朝鮮の脅威が高まれば「日米同盟の深化」を唱えるだけだ。日米安保条約で防衛面での自助努力を求めている「バンデンバーグ条項」には気付かないふりをしている。

 国家の安全確保には攻撃力が極めて重要なのだが、それを米国に委ねている。そしてトランプ新大統領の出現にあわてふためく。

 核兵器についても「唯一の核被害国論」で事実上、思考停止に陥ったままだ。これでは中国や北朝鮮の核恫喝を受けた時に周章狼狽するだけだろう。

「安全確保」が最大の課題

 多極化は国際社会の“常態”であって、見通し得る将来、継続する。

 この中で、現在の日本に求められている最大の課題は、国家の存立に不可欠な「安全の確保」である。