糸魚川大火、木密地域の防災策が急がれる


 新潟県糸魚川市の大火災は、木造住宅密集(木密)地域の災害に対する脆弱(ぜいじゃく)性を改めて浮き彫りにした。

 安倍政権は「強靭(きょうじん)な国土」づくりを目指しているが、その課題の一端を示したと言えそうだ。

 焼失数は過去20年で最多

 糸魚川市の大火災は、中心部の料理店から出火し、強い南風を受けて瞬く間に広がった。約10時間にわたって燃え続け144棟、約4万平方㍍が焼失した。この棟数は東日本大震災を除いて過去20年で最も多い。

 大火災で思い出されるのは1976年10月の「酒田大火」(山形県酒田市)だ。映画館から出火し、日本海側に発達した低気圧による台風並みの強風で延焼し、1774棟が焼失した。強風などの同様の条件下で、木密地域で火災が発生すれば、延焼範囲が拡大する恐れがあることを今回のケースは見せつけた。

 木密地域は道路が狭く、行き止まりも多いことから、消防隊や消防団が火災現場に駆け付けるのに手間取る。大地震では同時多発的な火災発生や道路寸断が予想され、消火活動は一層、困難になる。それだけに糸魚川大火は木密地域の防災対策の重要性を浮き彫りにした。

 阪神大震災(95年)では300件近い火災が発生し、約7000棟が焼失した。首都直下地震では最悪の場合、2000カ所で火災が同時発生し、このうち600カ所で延焼、約41万棟が焼失する。

 これを防ぐには、第一に家屋の耐震化を進めることだ。阪神大震災での出火の6割は倒壊家屋での電気ストーブや水槽ヒーターなど発熱器具からのものだった。耐震化を進めれば、確実に火災発生を減らせる。だが、全国の耐震化率は80%強にとどまり、1000万戸近くが無防備のままだ。

 第二に、地震を感知すれば自動的に電気を遮断し、漏電火災を防ぐ感電ブレーカーを普及することだ。政府は密集地での普及率向上を目指しているが、依然低い。国民への啓発や助成の拡大を図る必要がある。

 第三に、木密地域の整備事業を進めることだ。東京都では「不燃化特区」づくりに取り組んでいる。しかし、立ち退きや費用負担などがネックとなり、実施が遅れ気味だ。国は来年度予算で、都などの一部地域で都市計画道路や緑地、通り抜け路の整備などを推進する。自治体とも連携して急ぐべきだ。

 第四に、防災に強い「地域力」を高めることだ。阪神大震災では町会活動が活発な地域で犠牲者が少なかった。長野北部地震(2014年11月)は地域住民がチェーンソーや農機具で救出活動に当たり、一人の死者も出さず「白馬の奇跡」と呼ばれた。

 こうした教訓を踏まえ自主防災組織づくりを推進すべきだ。大地震では消防車に頼らず消火する必要に迫られる。それには地域住民が消火器や消火栓を使う初期消火が効果的だ。都の取り組む「防災隣組」づくりを木密地域で一層、進めたい。

 身近な取り組みも重要

 「強靭な国土」づくりはハード面に目を奪われがちだが、身近なところから地道に取り組んでいくことも重要だ。糸魚川大火はそのことを示している。