凶悪犯許さぬ社会づくりを


 子供を凶悪犯罪から守り、二度と悲劇を繰り返さないために何をなすべきか。夏休みの最中に大阪府寝屋川市の中学1年男女生徒が殺害された事件は、わが国の「安全な社会」の在り方を厳しく問うている。容疑者の男は過去にも少年監禁事件を起こしていた。再犯防止策の強化は焦眉の急だ。

 以前も監禁事件起こす

 45歳の容疑者の男は、女子生徒を三十数カ所も刺したり殴ったりし、顔を粘着テープで何重にも巻いていた。男子生徒も同じような状態で発見された。残忍極まりない犯行で「猟奇殺人」と言うほかない。犯行の動機を徹底究明する必要がある。

 気がかりなのは、容疑者が過去にも中学生らに声を掛けて車に誘い、粘着テープで縛る監禁事件を起こしていたことだ。事件後、矯正されずに放免されたため犯行がエスカレートした可能性が否定できない。こうした経緯も解明すべきだ。

 こうした猟奇的犯行は「性的倒錯」によってもたらされる一種の性犯罪だ。女子生徒に対する執拗(しつよう)な犯行がそのことをうかがわせている。性犯罪は再犯率が極めて高い。とりわけ13歳未満対象では3人に1人(34%)が再び犯行に及んでいる(2006年版「犯罪白書」)。

 こうした実態を受け、全国の警察本部に「子ども女性安全対策班」が設置され、「付きまとい」や「声掛け」など犯罪の前兆行為に目を光らせてきた。また04年の奈良女児殺害事件を教訓に子供への性犯罪服役者の出所情報を法務省から警察庁へ提供する制度も採り入れられた。それでもストーカー殺人は後を絶たず、今回も防げなかった。

 対策が甘いのは明白だ。自治体には独自で対策を練る動きもある。宮城県は11年1月、性犯罪の再犯の可能性が高い前歴者やドメスティックバイオレンス(DV)の加害者に対して、行動を監視できるように全地球測位システム(GPS)の常時携帯を義務付ける条例制定の検討に入った。

 この構想は東日本大震災で棚上げされたが、注目されてよい施策だ。すでに海外では導入されている。GPSだけでなく薬物治療を義務付ける国もある。こうした施策には人権侵害と反対する向きもあるが、加害者の人権だけを重んじ、被害者の人権を軽視する社会風潮が犯罪を助長していると知るべきだ。

 今回の事件では防犯カメラの映像が容疑者逮捕の決め手となったが、これも「監視カメラ」と呼び人権を盾に設置に反対する人々がいた。適正に利用すればよいだけの話だ。

 それにしても疑問が湧くのは、中1の男女生徒が深夜に徘徊(はいかい)しているのに誰も見とがめず、やすやすと凶悪犯罪を許したことだ。「見守り」の意識が希薄になっているのであれば、その再構築も急がれる。

 子供の保護は親の責任

 言うまでもないことだが、子供の保護責任は一義的には親にある。ところが子供の「自己決定権」と称して責任放棄を正当化する主張が一部にある。権利意識が過剰になれば、凶悪犯罪を防げないと認識すべきだ。

 今回の事件を教訓に子供を守る社会づくりを目指したい。

(8月24日付社説)