情勢変化への柔軟な秘密保護法の運用を


 特定秘密保護法が12月中旬に施行されるのに先立ち、運用基準が発表された。これを施行法でなく、諸外国と同じように政令にしたのは適切である。国家が直面する危機は極めて多様であり、同法は的確に対応して運用しなければならないからだ。問題は運用基準そのものでなく、国際情勢の変化に応じて柔軟に運用できるかどうかにかかっている。

 主権や国益守るため必要

 われわれが秘密保護法を考える際に真っ先に留意すべきは、独立国家が国際社会で主権や国益を守るための共通した必須機関、法律があるという点だ。同法は、その重要な法律の一つである。

 国家には、それが漏洩(ろうえい)すれば存立を脅かされる機密情報があるからである。それは企業でも同じことが言える。

 次に承知すべきは、第1次世界大戦以降、戦いはその烈度に関係なく総力戦となっており、その中で情報戦が極めて重要な役割を果たしている点だ。だが、わが国は情報公開法はあるが、秘密保護法がない世界で唯一の国である。旧ソ連のスパイ、レフチェンコ氏の証言で明らかになったように「日本はスパイ天国」となっている。その背景には、日本人の情報軽視の気質が潜んでいる。

 一部の左翼メディアは依然として「言論の自由がなくなる」などとして同法に反対している。欧米の主要議会制民主主義国家の場合、秘密保護法、刑法上の秘密保護規定が先に制定され、第2次世界大戦後、情報公開法が制定されている。両法について若干のトラブルはあるが、概して共存している。日本だけで両方が相矛盾し、言論弾圧に利用されるとの一部の主張は、自らを貶(おとし)めるものであり、首肯し難い。

 秘密保護法を立法趣旨以外に言論弾圧手段として悪用している国家があることは事実である。それは独裁国家、特に共産主義国家でよく見られる状況だ。皮肉なことに、これは左翼メディアが思想的背景としているイデオロギーを同じくしている国家である。

 今後、この運用基準を受けて国会論議が行われるが、重箱の隅をほじくるような揚げ足取りでなく、日本がいかに情報コントロール能力を身に付けるか、前向きの議論をすべきだ。政府も受け身でなく、この機会を利用して国民に情報管理能力の重要性を認識させるような答弁をするのが望ましい。

 その際、注意すべきは、第一に情報の漏洩を防ぐため、秘密指定を少なくすることである。秘密指定文書が多くなればなるほど、その扱いが乱雑になるからだ。

 第二に、行政機関内での地位に関係なく、当該秘密文書を必要とする者だけにアクセス権を与えることが漏洩防止の上で重要である。担当外の秘密文書については、おろそかに扱いがちだからだ。

 防諜機関設置も検討せよ

 第三に、英国のMI5のような情報漏洩を取り締まる防諜(ぼうちょう)機関の設置についても、早急に検討を開始すべきである。法は適用しなければ形骸化するからである。

(10月17日付社説)