敬老の日、健康寿命延ばし社会の力に


 全国の100歳以上の高齢者が過去最多の5万8820人に上った。きょうの「敬老の日」を前にした厚生労働省の調査で分かった。そのうち女性は87・1%を占め、初めて5万人を超えた。

 100歳以上女性5万人

 厚労省によると「医療技術の進歩や高齢者の健康状態の改善」がこれを後押ししている。人口10万人当たりの100歳以上の人数では、西日本に多く東日本に少ない「西高東低」の傾向が続いており、島根県が90・17人で一番多く、一番少ないのは埼玉県の26・88人だった。

 統計を取り始めた1963年には153人だった100歳以上が、今では女性だけで5万人いるということは、一つの壮観であり、世界に誇りうることである。2013年の平均寿命でも日本の女性は、86・61歳で2年連続の世界一。男性も80・21歳となり初めて80歳を超えた。

 一方で、これらの数字は急速な高齢化が進んでいることを改めて示すものであり、一層の対応が求められる。

 高齢者福祉はいま、一つの曲がり角に差し掛かりつつある。政府の経済財政諮問会議の専門調査会はこの5月、50年後も1億人の人口を維持する目標を掲げ、出生率を高めるために、社会保障の重点を高齢者から子供へ移すことを提言した。

 提言が具体的にどのような施策となるかは今後、議論されることになるが、人口減やそれによる自治体消滅の危機が現実的になる中、大勢としてこの方向に進まざるを得ないだろう。そういう中で、高齢者が生き生きと、そして尊厳を保ちながら暮らす社会をどう実現するかを追求していかなければならない。

 高齢者福祉に今までほど予算を投入できないとすれば、年金の受給年齢引き上げや健康維持を図って医療費を減らすことが求められる。もう一つは、家族や縁者がより多くの役割を担う方向に向かうしかない。

 厚労省が国民の健康づくりの指標「健康日本21」で、健康で自立して暮らせる期間である「健康寿命」を延ばすことを目標に掲げるのも、こうした財政事情が背景にある。

 だが、健康寿命が延びることで一番恩恵を受けるのは本人である。そして、国の予算を新しい命の誕生に回せると前向きに受け止めるべきだろう。

 社会保障が薄くなるか否かは別としても、高齢者は家族や縁者の支えが不可欠だ。もちろん、在宅介護、とくに老老介護には多くの困難が伴う。デイサービスをより効果的に利用できるようにするなど、困難を抱える家族をきめ細かくサポートする仕組みも作る必要がある。

 昨年、プロスキーヤーの三浦雄一郎さんが、80歳でエベレスト登頂を果たし、最高齢記録を塗り替えて高齢者に大きな勇気を与えた。70歳を過ぎても若々しく80歳を超えても元気に活動する人たちがたくさんいる。そういう人たちの活躍は、社会の大きな力となる。

 実りを実感するために

 人生の実りを実感するのが老齢期である。壮青年期にはない深い充実感を味わえるのはこの時期しかない。その前提となるのが、健康寿命の維持である。

(9月15日付社説)