中国WTO敗訴、早急に輸出規制を撤廃せよ


 中国によるレアアース(希土類)などの輸出規制をめぐる通商紛争で、世界貿易機関(WTO)の最終審に当たる上級委員会は今月、中国敗訴の判断を下した報告書を発表した。共同提訴した日本、米国、欧州連合(EU)の勝訴が確定した。

レアアースで国内優遇

 レアアースは、ハイブリッド車や省エネ家電のモーターなどに使われるほか、軍事分野にも欠かせない貴重な素材で、中国が世界シェア(占有率)の9割超を占めている。日米欧は2012年3月、中国がレアアースを対象に導入している輸出税や輸出数量制限がWTO協定などに違反するとして共同提訴に踏み切った。

 これに対し、中国は環境や資源保護が目的として、協定の例外規定の適用を訴えた。しかし、一審に当たる紛争処理小委員会(パネル)は今年3月、これを退けた。中国は4月に上訴したが、上級委はパネルの判断を踏襲した。

 報告書は中国の輸出規制について、国内産業を恣意(しい)的に優遇する政策だと断定し、環境や資源保護のためであれば「国内生産を制限する代替措置を取るべきだ」と判断した。中国は今後、半年から1年以内に是正措置を講じなければならない。是正されない場合は、日米欧は関税の引き上げなどで対抗することができる。中国は早急に規制を撤廃すべきだ。

 中国は10年7月にレアアース輸出枠の大幅削減を発表し、同年9月の沖縄県・尖閣諸島沖の中国漁船領海侵犯事件後には、レアアースの事実上の対日禁輸措置を取った。

 今回の共同提訴の背景には、中国が希少資源を外交カードとして利用したことに対する危機感があったと言える。

 日本企業は「脱中国」の動きを進め、中国産レアアースへの依存度は相当低下した。今後も調達先の多様化に力を入れる必要がある。リサイクルや、レアアースに依存しない技術革新も求められる。

 また長期的な課題としては、日本の排他的経済水域(EEZ)内の深海底に分布するレアアースの採取技術の開発も挙げられよう。日本最東端の南鳥島周辺には、濃度が中国の陸上鉱床の10~30倍、埋蔵量が日本の消費量の数百年分に達するとされるレアアースが存在する。

 最大の得意先だった日本企業の需要減などによって、中国は12年のレアアースの輸出総額を前年比で6割以上減らした。レアアース価格の下落傾向は続いており、中国では経営が悪化するレアアース企業が増えた。国際ルールに反して自国の利益を優先する通商政策を行えば、結局は報いを受けることを中国は認識すべきだ。

国際ルールの順守求めよ

 茂木敏充経済産業相は、上級委の報告書について「一部の資源国による保護主義的な動きが高まる中、世界の資源・エネルギー貿易の安定化の観点からも極めて意義が深い」との談話を発表した。

 日本は天然資源の多くを海外から輸入せざるを得ない。今回のWTOの判断を踏まえ、資源国に国際ルールの順守を求めていく必要がある。

(8月23日付社説)