石油掘削撤収、中国に国際法順守を訴えよ


 中国はベトナムと領有権を争う南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島付近で行っていた石油掘削作業を、当初予定よりも1カ月早く完了した。

 ベトナムでは中国を追い出したという「勝利の高揚感」が広がる一方、中国の掘削再開への警戒を緩めていない。

 高まった国際的批判

 中国も石油掘削を諦めたわけではない。近年の中国の南シナ海における蛮行を見れば、ベトナムばかりでなく関係諸国は抑止のための実効性ある対策を講じる必要がある。中国が掘削を行っていた海域は、ベトナムが主張する排他的経済水域(EEZ)に当たる。

 中国が5月初旬、掘削設備を搬入直後、中国側の採掘作業を阻止しようとしたベトナム船に、設備の護衛に派遣された中国船約80隻の一部が体当たりし、負傷者が出たばかりでなく、ベトナム船8隻が損傷を受けた。ベトナム政府は中国船がベトナム船に体当たりし、放水を繰り返す映像を公開した。

 これは日本の民主党政権が、沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船領海侵犯事件の際に取った対応とは対照的だと言える。今回の中越衝突は、これまで劣勢にあったベトナムの堪忍袋の緒が切れたものであった。

 ベトナム国内では反中デモが吹き荒れ、死傷者まで出す事態となった。米国も介入に乗り出し、このほど開催された米中戦略・経済対話では中国の威圧的行動に直接懸念を伝えた。

 また、掘削の終了に先立ち、米上院は本会議で、メネンデス外交委員長(民主党)やルビオ、マケイン両議員(共和党)ら超党派の議員提出の、東シナ海や南シナ海における中国の拡張主義を非難する決議を全会一致で採択した。決議は現状を変更するための威圧的、脅迫的行動を批判し、領有権をめぐる問題は国際法に則(のっと)って解決するよう求めている。

 中国が当初の予定よりも早く作業を完了したのは、8月に東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)の開催を控え、国際的な批判が集中しかねない上、米国に「干渉」の口実を与えることを懸念したことが背景にあるともみられている。ベトナムのグエン・タン・ズン首相は「中国は同じ違法行為を繰り返してはならない」と強調した。

 中国の理不尽さに対する憤りを抑えるのは難しいが、尖閣周辺の中国の蛮行を目の当たりにする日本としてもどう対抗するかである。

 安倍晋三首相を筆頭に安倍内閣の閣僚がいろいろな機会に繰り返している①国際法による支配②力による現状変更に反対――という至極当然の原則をくどいほど強調する必要がある。各国と同意の意思表示を行うことで、この原則を確認していくのである。

 「行動規範」策定を急げ

 中国は6月下旬と7月初旬、ベトナム近海で拿捕(だほ)したベトナム人乗組員を解放した。だが、これだけでお茶を濁せる事態ではない。今後、南シナ海における「行動規範」策定が急がれねばならないが、関係国が連携を強化して中国に対して強い態度で臨むことこそ緊要である。

(7月20日付社説)