少子化非常事態、国と地方で大胆な施策を


 佐賀県唐津市で開かれた全国知事会議で「少子化非常事態宣言」を採択し、国・地方を通じて少子化対策に総力を挙げて取り組むべきだとの考えを打ち出した。「非常事態」は決して大袈裟な表現ではない。深刻な現実である。

「死に至る病」への危機感

 民間の有識者らでつくる「日本創成会議」が5月、独自の推計を基に発表した報告書では、2040年には全国の市区町村の半数に当たる896自治体で、20~39歳の女性の人口が10年に比べて半分以下に減り、自治体が消滅すると予測されている。

 「非常事態宣言」は、こうした予測への知事たちの強い危機感の表れだ。冒頭のあいさつで山田啓二会長(京都府知事)は「今、日本は死に至る病にかかっている」と述べた。宣言は「国家の基盤を危うくする重大な岐路に立たされている」とした上で「今こそ思い切った政策を展開し、国・地方を通じたトータルプランに総力を挙げて取り組むべき時だ」と強調した。

 日本創成会議の報告書作成に携わった増田寛也元総務相は、宣言採択前の議論で「人口減少の原因は20~30代の若い女性の減少と東京への若者の流出だ」と指摘。「少子化対策と東京一極集中対策を同時に行っていくことが必要だ」と訴えた。わが国の少子化は、地方から都市とくに首都圏への人の一方的な流れが大きく関わっている。その解決には、国と地方の関係そのものにメスを入れる必要がある。

 戦後の日本の経済成長は、地方から供給された質の高い労働力なしには成り立たなかった。国の発展に地方が果たした役割は、こうした観点からも見直されるべきだろう。地方自治体が消滅するような事態に陥れば、日本全体が衰弱し「死に至る病」から回復できなくなる。

 政府の経済財政諮問会議の専門調査会は5月、50年後も1億人程度の人口維持を目指すことを求めるとともに、出生率を高めるために、社会保障の重点を高齢者から子供へ移し、「出産・子育て支援の倍増」を行うよう提言した。

 もちろんこのような方向転換は重要だ。しかし、それだけで出生率が上がるとは思えない。地方と首都圏の関係を変えるほどの大胆な政策を採らなければ、地方から若い人々が流出し、東京に住み着き低い出生率にとどまる可能性は高い。

 東京への人口流出を食い止めるには、地方がもっと魅力を高めなければならない。そのために政府が進めようとしている地方中枢拠点都市構想にも期待したい。若者を地方に呼び戻すには働く場所の確保が肝要だ。西川一誠福井県知事の「法人税率の引き下げで企業の地方移転を促すべき」との提案など国は真剣に検討すべきだ。

田園志向の後押しを

 一方、人口減の田舎に移住し、そこで農業などを営みながら子育てをする若者も増えている。新しい思想やトレンドに敏感な若い世代の田園志向は、個人主義とともに発展してきた近代都市文明から地方・家族中心の文化重視への画期的な変化と言える。それがもっと大きなトレンドとなるよう、強力に後押しする施策が求められる。

(7月19日付社説)