家族重視で少子化克服目指せ


 日本の人口は減り続けている。このまま少子化に手をこまねいていれば、2060年には約8600万人となり国民生活が大きな影響を受ける。まさに国家存亡の危機だ。

 こうした予測を受け政府の有識者会議は人口維持策を練っている。従来の施策に縛られず、大胆な立案が必要だ。

 出生率の数値目標検討も

 人口を維持するには合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)が2・07以上であることが必要だが、現在は1・41(12年)にとどまる。日本の人口は減り続け、安全保障も社会保障も根底から揺らぐ。国土交通省の試算では50年には国土の約6割が無人になるという。

 このため内閣府の有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」は出生率の数値目標の導入を検討している。曖昧な目標でなく、どのような施策でどう成果を上げるか、数値を明確にして対応する。深刻な少子化を克服するには当然の措置だ。

 想起すべきは少子化対策が1994年のエンゼルプラン(子育て支援策)以来、ことごとく失敗してきたという厳然たる事実だ。なぜそうだったのか、原点に立ち返って論議する必要がある。

 少子化は「先進国病」とされる。欧州のある学者は、近代化とともに伝統的家族観が崩壊し、不安定な家庭、個人主義の広がり、自己実現欲が重なって出生率が急速に下がったと指摘している。結婚よりも同棲は壊れやすく、離婚の増加はカップルの関係を一層、不安定化させるからだ。

 別居率や離婚率が上がると、女性は子供を一人で育てなければならない可能性が高まり、その不安から子供の数を減らそうとする。それで出生率低下に拍車が掛かったというのだ。

 そのため北欧は女性が働きやすくなることで不安を解消する経済・労働政策を採った。これをわが国は「北欧神話」として踏襲してきた。それが少子化対策の失敗の原因と言ってよい。わが国には伝統的家族観が息づいているからだ。

 例えば、3歳以下の子供のいる母親の約6割は育児に専念したいと願っている(内閣府「女性のライフプランニング支援に関する調査」)。出産・育児に喜びを感じ、それを価値視する女性が多いのだ。

 にもかかわらず、政府はそうした女性を支援せず、「北欧神話」に翻弄(ほんろう)され、またジェンダーフリー派の主張を真に受けて専業主婦を軽視し、母親を労働に駆り立てる政策ばかりに目を奪われてきた。今も配偶者控除撤廃の動きがある。

 欧州にはフランスが採る家族支援策もある。フランスは第1次世界大戦で50万人の若者が死亡し、著しい出生率低下を招いたため、第2次大戦前から国を挙げて出産奨励策を講じてきた。その流れの中で労働政策ではなく、あくまでも家族支援策に重点を置き、その結果、出生率は2を上回っている。

 家族支援する政策を

 言うまでもなく、少子化を克服できるのは婚姻と出産に関わる「家族」だ。家族を重視する政策で出生率の向上を目指すべきである。

(5月12日付け社説)