辺野古埋め立て、承認取り消しは最悪の選択だ


 沖縄県にある米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設問題をめぐって、翁長雄志知事は仲井真弘多前知事による名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認の取り消し手続きを開始した。取り消されれば法廷闘争にまで進む恐れがあり、国と沖縄の対立は泥沼化することになろう。最悪の選択というほかはない。

国と県の集中協議が決裂

 移設問題に関する政府と沖縄県の5回にわたった集中協議は決裂した。首相官邸で開かれた最後の会合には安倍晋三首相も出席したが、物別れに終わったのは残念だ。政府はこれを受け、辺野古での作業を再開した。

 県は沖縄防衛局からの意見聴取を経て、10月中旬に承認を取り消す見通しだ。翁長知事は「ありとあらゆる手段を講じて辺野古に基地を造らせないということの第一歩だ」と説明した。政府は行政不服審査法に基づく不服申し立てなどで対抗しながら作業を継続する構えだ。これに対して県は作業の差し止め仮処分申請などの法的手段を視野に入れており、法廷闘争に発展する可能性が高い。

 普天間飛行場は住宅密集地にあり、「世界一危険な米軍基地」であることは誰もが認めることだ。住民の安全確保のための移設の必要性については、政府、県側とも異論はないだろう。対立の泥沼化は避けるべきだ。

 協議決裂の原因は、政府が「辺野古移設は唯一の解決策」としているのを県側が認めないことだ。辺野古移設は安全保障と地元住民の便宜の双方を熟慮して日米両政府が合意した。

 最後の会合に安倍首相が出席したのは30分だけだった。公務の多忙は分かるが、この機会にもっと時間を割いて、中国や北朝鮮の脅威増大を前に、沖縄の地理的位置から在沖縄米軍が抑止力の要となっている事実を、県側に説明すべきであった。

 残念なのは翁長氏が知事として沖縄の視点のみに執着し、わが国を取り巻く安全保障環境の厳しい現実を直視していないように思われることだ。だが日本全体と切り離して、沖縄の安全保障も成り立たない。

 辺野古への移設が遅れれば、米海兵隊のグアム移転に影響し、沖縄の米軍基地固定化につながることが考えられる。そうなれば住民の対米不満が高まり、日米安保体制にも影響しよう。

 一方、沖縄には在日米軍専用施設の74%が集中している。政府が基地負担に配慮するのは当然だ。2016年度の沖縄振興予算の概算要求額は3429億円で15年度当初予算比で89億円増となった。安倍首相は21年度まで毎年3000億円台を確保する意向を表明している。沖縄の一層の発展につなげたい。

政府は基地負担軽減を

 集中協議は物別れに終わったものの、政府と県は基地負担軽減などを話し合う協議会の新設で一致した。

 政府は米軍嘉手納基地(嘉手納町など)以南の施設・区域の返還時期前倒しなど負担軽減に努めるとともに、日本の安全に沖縄の米軍基地が不可欠という現実を今後も県民に丁寧に説明することが肝要だ。翁長知事も国との対立を激化させるのではなく、普天間問題で大局的な見地に立つことが求められる。

(9月15日付社説)