降水観測衛星の打ち上げで「環境」の国際貢献を強調した産経と本紙


◆実質的商業打ち上げ

 地球全体の雨や雪の降水状況を観測する「降水観測衛星」が2月28日の早朝、鹿児島県の種子島宇宙センターから、H2Aロケット23号機で打ち上げられた。衛星は予定の軌道に投入され、打ち上げは成功した。

 今回はこの衛星打ち上げを取り上げたい。これを社説で掲載したのは、5日までに産経(1日付)と本紙(3日付)の2紙だけだが、その意義は決して小さくない。

 産経「主張」は、今回の打ち上げ成功は「日本のロケットの信頼性を高めるとともに、地球環境分野で国際貢献に取り組む姿勢を示したことに大きな意義がある」と強調した。同感である。

 まず、ロケットの信頼性では、両紙が記すように、H2Aは今回で17回連続で打ち上げに成功。失敗は唯一6回目だけで、「95・7%の成功率で、信頼性は世界トップクラス」(本紙)なのである。

 海外衛星の受注実績こそ、まだ2件と少ないが、その1件は09年1月に受注し、12年5月の21号機で打ち上げた韓国の多目的実用衛星「アリラン3号」である。この時が、H2A初の商業打ち上げとなった。

 こうした事実を記したのは本紙だが、日韓関係がぎくしゃくしているこの時期、今回の打ち上げを通して、両政府とも、この事実を冷静な目で再認識してほしいということか。

 本紙はまた、次のような事実も記す。H2Aは07年に打ち上げた13号機から、業務が三菱重工業に移管された。同社は部品点数や作業工程の削減などで課題のコスト低減に努め、昨年9月にはカナダのテレサット社から通信放送衛星(の打ち上げ輸送サービス)を受注した――。

 アリラン3号の打ち上げは、水循環変動観測衛星「しずく」との相乗りだったが、テレサット社の場合は、同社単独の打ち上げである。「(実質的に)初の商業衛星打ち上げ受注をメジャーリーガーから得たのは、このマーケットにおいて非常に有効に働くと信じています」と三菱重工業の責任者は語ってくれた。本紙の記述の背後に、こうした意味があることを付け加えたい。

◆地球環境に国際貢献

 さて、もう一つの大きな意義である、地球環境分野における国際貢献である。

 今回打ち上げた衛星は、産経などが指摘するように、「全球降水観測(GPM)計画の要となる主衛星である。主衛星は副衛星観測の基準となり、精度を高める中心的な役割を担う。

 産経は特に、「日本には、米国とともにこの分野を牽引(けんいん)してきた技術と実績がある」と強調する。

 それというのも、例えば、GPM計画そのものの基礎になったのが、1997年に打ち上げた熱帯降雨観測衛星で、今回の主衛星と同様、日米が共同で開発した。しかも、副衛星群の一つにJAXA(宇宙航空研究開発機構)が2012年5月に打ち上げた「しずく」があり、本紙は「日本の地道な貢献が光っている」と称(たた)えた。

 GPM計画により、雨量計など地上の観測機器の整備が進んでいないアジアなどの地域や、海域の降水データも得られ、「地球の降水の全体像が初めて明らかになる」(産経)。そして、得られた観測データは、豪雨や洪水の予測、天気予報の精度の向上、異常気象のメカニズムの解明、水資源の適切な管理などに利用される。

 産経「主張」は、日本が世界各国から信頼され、必要とされる国家であり続けるためにも、環境分野での一層の国際貢献に努めたい、との文章で社説を結んだ。その通りであるが、事実、日本はそのように実行している、と指摘する識者は少なくない。

 日本の宇宙開発は、基本法や基本計画にあるように、国際貢献が大きな柱の一つになっている。

◆日米開発評価すべし

 有人飛行や軌道上での宇宙船のドッキングを成功させた中国のような派手さはないが、小惑星「イトカワ」から試料を回収して帰還した探査機「はやぶさ」のような宇宙探査の先進性と同様、わが国の環境分野での国際貢献はもっと強調されてしかるべきである。

 今回、衛星が日米共同開発ということもあり、キャロライン・ケネディ駐日米大使が打ち上げを視察し、花を添えた形だが、社説を掲載したのが2紙しかないのは、非常に残念である。

(床井明男)