世界日報 Web版

現職敗北の名護市長選 世論調査と報道が裏目に


《 沖 縄 時 評 》

偏り過ぎた地元マスコミ

◆「辺野古」のみ争点に

現職敗北の名護市長選 世論調査と報道が裏目に

稲嶺氏先行を伝えた1月30日付の沖縄タイムス(下)

 2月4日の名護市長選で、辺野古移設反対を主張する「オール沖縄」勢力や、敗れた稲嶺進氏の陣営の側から一貫して流された選挙宣伝の中に「争点はずし」「争点ぼかし」という批判が大量に飛び交った。

 オール沖縄および翁長雄志県知事、稲嶺陣営、新聞等県内マスコミは「辺野古新基地建設問題」を叫んでいたが、渡具知武豊候補の政策が辺野古移設問題の是非に触れず、候補者本人も辺野古問題の賛否に何ら意思表示が見られない状態は、選挙の争点はずし、争点ぼかしで許せない、との批判だ。

 これに対して、辺野古問題に対する渡具知氏の態度は選挙期間中、終始一貫していた。辺野古移設に反対する翁長知事やオール沖縄勢力の稲嶺陣営が辺野古移設に対する「ノー」か、推進・容認を意味する「イエス」かのどちらか二択(二者択一)を迫る中で、渡具知氏は行政の長(市長)が取るべき公正な姿勢を明確に示して、辺野古問題に対する考え方にきちんと言及している。

 翻って、辺野古移設の争点問題はある意味、選挙戦の中では「オール沖縄」勢力の専売特許の感がしたが、賢明な名護市民は何ら動じることなく、民主主義のルールにのっとってちゃんとした判断を下した。

 まるで特定政党のプロパガンダと見まがう「辺野古新基地建設問題」の是非を前面に押し出した稲嶺陣営の「争点」に対して、名護市民の多くは稲嶺陣営の土俵に乗らなかった。最終的には大差をもって明確に「ノー」を稲嶺陣営に突き付ける結果になったのだ。

 選挙民に訴える選挙の争点、論点はたった一つではない。「辺野古移設問題」というワンイシューだけではあり得ない。ところが、「辺野古新基地問題」一点のみに論点を置き強調された「争点」は、誤解を恐れずに言えば辺野古反対勢力と地元マスコミの対応があまりにも一致し過ぎていたため、どこかで両者の間に「阿吽(あうん)の呼吸」が流れたのかとの疑いさえ出たほどである。

 2014年11月の沖縄県知事ならびに那覇市長の同時選挙とそれ以降、新聞の琉球新報と沖縄タイムスを筆頭とする沖縄地元マスコミの選挙報道は、辺野古移設計画反対(「新基地」反対)ないしは基地反対勢力に与(くみ)する方向で論調が操作された疑いは否めない。

 今回の名護市長選挙に関してみると、地元マスコミ報道(特に新報、タイムス)は終始一貫、「辺野古新基地問題」を主要見出しに掲げ、しかも報道内容も「最大の争点」であるかのごとく連日報じ続け、投票日当日の紙面では「辺野古新基地建設に審判」と大見出しを立てた。まるで辺野古問題以外の争点はないかのような扱いである。何だか有権者=選挙民の投票行動を辺野古問題一点に操作誘導している印象が強く、そうした錯覚さえ覚える読者、有権者も多かったであろう。

 案の定、選挙後の新聞コラムで選挙現場の取材記者(タイムス北部報道部)が「どれだけ報道を参考にしてもらえたか」と渡具知氏に投じた市民に「もどかしさ」を覚えたふうに書いている。現場記者の勝手な思い込みと、言論操作を意識したペン先は怖い。

◆信頼揺らぐ事前調査

 ここで、選挙のたびに出てくる報道機関とか、言論機関と呼称されるマスコミの世論調査や投票所での出口調査に焦点を当て、関連してオール沖縄勢力や翁長知事が応援した稲嶺氏の「敗北の真相」を追ってみる。

 名護市長選挙に関する新聞、テレビ等地元マスコミの選挙予測報道はおおむね「現職(稲嶺進氏)優位」の論調で報じられてきた。

 今回名護市長選挙では主に自公と維新推薦の渡具知候補陣営のメンバーから「相手候補というよりはマスコミとの戦いが大変だった」という声がずいぶん聞かれた。

 選挙前の世論調査や選挙当日の出口調査全てに何ら変動はなかった。

 ところが、投票箱のふたを開けてみると、大差で渡具知氏に軍配を上げた。その瞬間、マスコミが総力を挙げ、威信を懸けた各種事前調査の信頼は大きく揺らいだのである。琉球新報、沖縄タイムスを軸にした地元マスコミは、自らが行った事前調査と、実際の投票結果では全く相反する結果が生じた現実を突き付けられ、選挙報道の難しさを十分に認識したであろう。同時に、誤った情報を発信した報道の責任と反省が頭に思い浮かばなければウソになる。

 調査と現実の選挙事情は逆転したのである。

 調査に依拠した報道はどこか危うい。総力を挙げたとする自社の「現職優位」の調査を前にして、現場記者の目にはどうしてもバイアスがかかる。強い先入観が邪魔して現場取材が手薄に回り、一方の陣営に傾いた報道につい陥ってしまう。基地問題に比重を置き過ぎたため、辺野古問題を「最大の争点」とした稲嶺陣営の戦術的弱点が見抜けなかったかもしれない。

 各種調査では設問ないし質問に回答しなかった有権者=選挙民が4割から6割いた。逆にいえばこれは回答率が6割から4割でしかないことを意味し、マスコミの各種調査結果は、こうした回答拒絶組を除いた数字の中のさらに、5割や6割が「辺野古反対」とか「現職支持」と答え、表に出てきた数字にしかすぎない。

◆知事選への影響必至

 つまり、調査総数の半数前後を占める回答拒否や回答保留の有権者が厳然と存在する事実は省かれ、カウントしない調査結果が全体の「世論調査」と称して世間に顔を出してきたに等しい。

 マスコミの誤った報道、情報に戸惑い、迷惑したのは何も選挙民だけではない。マスコミの事前調査、事前情報を信じ切った稲嶺氏は「現職優勢」の調査ものに災いされた。おそらく稲嶺氏本人や翁長知事、選挙事務所に詰め掛けた国会議員の面々、オール沖縄勢力共同代表の呉屋守将・金秀グループ会長も同じ苛立(いらだ)ちと、マスコミ不信を抱いたはずである。今年秋の県知事選挙にもマイナス影響を及ぼすのは必至の情勢だろう。

 「現職優勢」の世論調査と報道が裏目に出たオール沖縄勢力と、稲嶺陣営からしてみれば、地元マスコミの選挙対応はまさに「贔屓(ひいき)の引き倒し」の役割を演じた感が強い。報道に対してこれまで信頼感が強かった分、落胆も大きく、最終局面に来たところで、サッカーで言うところの「オウンゴール」を食らった感覚に近いのではないか。マスコミのアナウンス効果が過剰に効き過ぎた選挙敗北とも言える。

ジャーナリスト 新里 英紀