天皇陛下お言葉、御意向に沿う叡智集めよ


 天皇陛下が「象徴としてのお務め」について、御自身のお気持ちをビデオメッセージで発表された。直接のお言葉はなかったものの、摂政を置くことにも否定的な御見解を述べられ、「生前退位」の御意向を強く滲ませられた。

 陛下がビデオメッセージで、国民にお気持ちを表明されるのは、2011年の東日本大震災以来2度目のことである。国民に直接語り掛けられるということ自体、陛下のこの問題への切実な御心情が察せられる。

生前退位を示唆される

 陛下のお言葉を重く受け止め、その御意向に沿いながら、皇位の安定と日本の国体、国柄を守っていくためにどうすればよいか、政府、国民が叡智を結集すべきである。

 現在82歳の御高齢の陛下は、「次第に進む身体の衰えを考慮する時、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と述べられた。

 これまで陛下は、憲法で定められた国事行為のほか、数多くの御公務、さらに天皇の中心的務めである宮中祭祀を、まさに「全身全霊をもって」果たしてこられた。2度の手術を経られた後も、御公務は基本的に削減されなかった。

 先の大戦の戦地への慰霊の旅、最近では熊本地震などの被災地への訪問を精力的に果たされた。被災地では人々を励まされ、全国各地の訪問先でも親しく人々と接してこられた。それは象徴としての在り方を真剣に模索してこられた陛下が、開かれた新しい姿でもあった。

  「伝統の継承者として、これを守り続ける責任に深く思いを致し、更に日々新たになる日本と世界の中にあって、日本の皇室が、いかに伝統を現代に生かし、いきいきとして社会に内在し、人々の期待に応えていくかを考えつつ、今日に至っています」。

 陛下が、生前退位の御意向を滲ませられた背景にあるのは、このような「象徴としてのお務め」への深い思いと責任感であることは、今回のメッセージでも明らかである。

  日本国の象徴としての重い責任、御心労は陛下にしか分からない。その一方で、天皇としての御存在そのものが尊く、それ故に日本国の象徴であることも事実である。それは、日本の長い歴史の中で、皇室と国民によって育まれてきたものである。

  生前退位のため皇室典範の改正や特別立法を検討するにしても、制度上のさまざまな課題が浮上してくる。生前退位が可能となった場合、皇位をめぐって外部からの政治的あるいは無責任なメディアの影響が加わる危険も大きい。時の権力者の思惑によって天皇が退位させられた過去の歴史も踏まえながら、慎重な検討が必要である。

特別な立場に留意を

 政府は陛下の御意向を受け、有識者会議を設けて論議を開始する一方、世論の動向にも注意を払うことになるだろう。陛下は第一線を退かれ、もっとお楽に、というのが多くの国民の気持ちだ。だが天皇という立場は、一般の高齢者と同様に考えることはできない。この点を政府、国民とも忘れてはならない。