広島中3自殺、あまりにも配慮が欠けている


 広島県府中町立中学3年の男子生徒が自殺した問題で、町教育委員会と学校は、誤った進路指導が原因だったと認めて生徒の両親に謝罪した。

 廊下で「万引きあるよね」

 生徒は学校推薦の必要な私立高校の受験を希望したが、1年生の時に万引きをしたとされる記録があったため、学校側は進路指導で推薦できないと生徒に伝えていた。しかし生徒の自殺後に学校側が調査したところ、生徒は万引きをしていないことが判明したという。誤った記録さえなければ生徒は推薦基準を満たしていた。

 学内の規定では、万引きをした生徒名の備忘録への記入や、生徒による書面での事実確認が必要だった。だが、同時期に発生した校内暴力への対応を優先し、いずれも行われなかった。これらの書類による確認がないまま、生徒指導担当教諭は自殺した生徒の名前を教員用のサーバーに誤って記録したという。

 これは単なるミスでは済まされない。学校側が生徒一人ひとりのことを真剣に考えていたのか、疑われても仕方がない。

 進路指導の在り方にも首を傾げざるを得ない。担任が自殺直前に生徒と行った「5回の面談」はすべて廊下での5分ほどの立ち話だった。万引きの記録があるので推薦は難しいということもこの時に伝えたそうだが、生徒の将来を何だと思っているのだろうか。

 その上、担任は「万引きがあるよね」と生徒に問い掛けているが、これも生徒に聞く前に、当時の担任に確認しなければならないはずだ。万引きの誤った記録がされていたのも普段の生徒指導用の資料で、本来は進路指導で参照するものではなかったという。

 こうしたミスの連続、そして配慮の不足が生徒を絶望させ、自殺に追い込んだのであれば、学校側の責任は極めて重い。保護者たちからは「子供を預けるのが怖い」という声も上がっているが、無理もないだろう。

 気になるのは、この生徒がクラスの雰囲気について「どうせ言っても先生は聞いてくれない」と親に話していたことだ。町教委は第三者委員会を設置し、この問題を調査するが、生徒がなぜこのように考えていたかも明らかにする必要がある。

 この中学では前年まで3年生時の非行歴を推薦判断の材料としていたが、今年11月の教員の会議で「3年間、非行歴がないこと」と推薦条件を変更した。だが、保護者や生徒にこのことを伝えていなかった。

 こうした条件は3年の担当教諭だけで検討することが慣例化していたという。校長は決定を承認するのみで、検討には参加せず、現場に任せきりになっていた。これもおかしな話だ。重要な条件変更を保護者に伝えず、校長も関与しなかったのはなぜなのか。第三者委は徹底解明しなければならない。

 再発防止の取り組み急げ

 生徒の両親は「ずさんなデータ管理、間違った進路指導がなければ、わが子が命を絶つということは決してなかったと、親として断言できる」と述べている。全国の教育関係者はこの言葉を胸に刻み、再発防止の取り組みを急ぐべきだ。