「チューリップ親指姫を覗き見る」(神山…


 「チューリップ親指姫を覗き見る」(神山喜美代)。チューリップは春の季語で、子供たちがよく描く画題。可愛(かわい)らしいイメージが定着しているが、多様な園芸品種があり、花の姿は実にさまざま。

 小社への通勤路に面した庭園で、主婦が色とりどりのチューリップを咲かせていた。中には花弁をユリのように広げたピンク色の小さな花があり、中は黄色。それもチューリップだという。

 花弁の先が尖(とが)ったもの、フリル状のもの、一重も八重もある。原産は中央アジアの天山山脈やパミール高原。12世紀の初めにアナトリア半島にもたらされ、オスマン帝国はこれを大切にして栽培した。

 東京・六本木の国立新美術館で「トルコ至宝展」が開催中だが、チューリップはトルコの国花。アフメト3世(在位1703~30)の治世に、その栽培と品種改良に多大な情熱が注がれたという。

 そればかりか建築装飾、宗教祭具、絨毯(じゅうたん)、食器、写本、書籍の装丁など、至る所にチューリップのデザインが使われた。というのもトルコ語でこの花は「ラーレ」といい、アラビア文字を組み替えるとイスラム教の神「アラー」に。

 逆さに読めば国旗に描かれる新月(三日月)をも意味し、チューリップは国家的・宗教的なシンボルとなって、神への畏敬を暗示する品々が作られたという。展示品を見れば、ここで品種改良が多くなされただけあって絵柄もバラエティーに富む。この世のものとは思えない美しさだ。