通常国会の施政方針演説で、安倍晋三首相は…


 通常国会の施政方針演説で、安倍晋三首相は少子化対策の一つとして、3歳から5歳までの全ての子供たちの幼児教育を無償化することを掲げた。「子供たちを産み、育てやすい日本へと大きく転換していく」という。

 演説の中で、直接出産を促す文言はないが、親の経済負担を軽減し、余裕を持った生活、また子育てを実現し、その上で次子、三子を……ということだろう。

 しかし、関連の数字・統計を見る限り、その目論見(もくろみ)は当たりそうにない。例えば、育児をしながら働いている女性の割合が近年、全国で最も高いのは島根県の約80%で、同県の出生率は沖縄県に続く全国2位で1・80となっている。おしなべて、共働きの多い地方の女性の方が子供をたくさん産んでいる。

 一方、東京都は出生率1・24で、有業率も55%前後と高くない。男女雇用機会均等法がもてはやされた時期があったが、首都圏の方が地方よりも若い女性の有業者の割合が小さく、同時に出生率も低いのだ。

 経済的余裕がなく、子育てが大変。だから次子の出産に手が届かない、というのでは必ずしもないことは、少なくない専門家が指摘していることでもある。

 施政方針演説を読み返すと分かるが、幼児教育の無償化は、出産奨励ではなく、全世代型社会保障実現の一環という意義付けもあるようだ。政治家が「子供を多く産みましょう」と国民に直接、訴えたり呼び掛けたりできない風潮はおかしくないか。