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「乾坤(けんこん)に一擲(いってき)くれし…


 「乾坤(けんこん)に一擲(いってき)くれし大夕立」(安積素顔)。「乾坤」とは天地のこと。よく使われる用語として「乾坤一擲」がある。「天に運を任せて大勝負に出ること」という意味だ。

 本来は賭け事などに用いられる言葉だが、転じて政治などの勝負にも使われる。戦国時代の織田信長の桶狭間の戦いは、まさに「乾坤一擲」と言っていい奇襲作戦。このような作戦は一生に一度あるかないかのばくちで、信長もその後は実行していない。

 「さみだれや大河を前に家二軒」(蕪村)。冒頭の引用句は、このような言葉を使って夕立のイメージを表現したもの。漢語によって自然現象を擬人化する手法は蕪村に通じるものがある。夕立の理不尽なまでの現象をよく示している句だ。

 台風7号などの影響によって、西日本を中心に記録的な大雨に見舞われ、各地で甚大な被害が発生している。死者の数も増え、行方不明者も多数いるという。

 各地で土砂崩れや河川の氾濫(はんらん)が相次ぎ、被害は今後ますます拡大しそうだ。夏は大雨が降ることが少なくないが、時には大きな災害となることもある。

 「落雷やまたゝきともる仏の火」(高久田瑞子)。日本は自然が豊かであるとともに、自然災害が多い国であることは言うまでもない。文明があまり発達していなかった時代、自然災害は今よりも恐ろしいものだったろう。「地震・雷・火事・親父」とはそんな時代の言葉。この中で「親父」が脱落したことが現代を象徴している。