落語の笑いも噺家(はなしか)によって随分…


 落語の笑いも噺家(はなしか)によって随分質が違う。ばかばかしい笑い、こそばゆい笑い、ニヒルなブラックユーモアなど。人気番組「笑点」の大喜利では、笑いの個性が際立つ。

 「笑点」の開始時から出演し、司会も務めた桂歌丸さんの笑いは、可笑(おか)しさの中に何かほのぼのとしたもの、あるいは人生への肯定的なものがあった。それが幅広い人気の背景にあった。その歌丸さんが亡くなった。81歳だった。

 「『笑点』のおかげで顔が知られるようになったけれど、大喜利の歌丸ではなく、落語家歌丸としてきちんと落語をやりたい」(『歌丸ばなし』ポプラ社刊)と古典落語の名手だった。「怪談牡丹燈籠」「塩原多助」など三遊亭円朝作の怪談や人情話に力を注いだ。

 病が進行し、酸素吸入器のチューブを鼻に付けながらも高座を務める姿に、落語に懸ける執念を見る人もいただろう。しかし、それが決して悲壮な感じを与えなかったのは、歌丸さんの芸の力と人生肯定のスタンスがあったからのような気がする。

 「落語は人間の業の肯定である」とは、立川談志が残した言葉だが、歌丸さんが放つオーラは、嫌なことでも明るく笑い飛ばしてくれた。

 歌丸さんの生の口演は、もう聞かれなくなる。しかしありがたいことに今の時代、DVDや手軽なところではユーチューブにアップされたものもある。古典をじっくり楽しみたいと思った時、あるいは落ち込んだり、心がぎすぎすしたりした時は、歌丸さんの高座を聞こう。