「××の謎」という本やテレビ番組はなく…


 「××の謎」という本やテレビ番組はなくならない。謎は読者や視聴者の強い関心を引くからだ。ワイドショーも同じ流れだ。慶応3(1867)年の坂本龍馬暗殺事件も、実行犯(京都見廻組)が確定した後も「黒幕は別(例えば薩摩藩)」という形で謎は残された。

 しかし最近の研究では、約150年前のこの事件についても「黒幕も含めて謎はない」との結論がほぼ定着している。それを認めないのは、謎を叫び続ける歴史小説家や歴史愛好家だけだ。

 最近刊行された桐野作人(さくじん)著『龍馬暗殺』(吉川弘文館)は、事件の謎を一掃する決定版だ。なお桐野氏は歴史作家だ。謎を声高に叫ぶタイプのように見えるが、実体は違う。歴史出版社のシリーズとして刊行されたのは、歴史学者と同等の史料重視の手法に基づくからだろう。

 無論、見廻組自身が暗殺を計画し、実行したわけではない。京都守護職松平容保(かたもり)か、京都所司代松平定敬(さだあき)からの命令によって、治安・警察活動の一環として龍馬と中岡慎太郎は殺害された、というのがこの本の見方だ。

 公務である以上、「暗殺」ではなく「殺害」というべきなのだろうが、昔から言われてきた見廻組実行説を、膨大な史料の解読によって改めて実証しているのがこの本だ。

 歴史小説家中村彰彦氏の「薩摩藩黒幕説」にも、厳しい批判が加えられている。今後黒幕説が出るのは、史実に立脚したまともな議論の上ではなかなか難しいのではあるまいか。