今年のノーベル経済学賞を受賞するのは、…


 今年のノーベル経済学賞を受賞するのは、米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授である。人間の心理を意思決定の分析に応用した「行動経済学」の研究が評価された。

 従来の経済学では、経済主体は利益を求めるために合理的な判断をするという前提で理論を構築してきた。が、セイラー教授は人間は必ずしも合理的に判断するわけではないという前提で理論を組み立てた。

 経済学は奇妙な学問だという印象を気流子が抱いたのは大学で学んだ時だが、その印象は今も消えない。というのは、その学問が人間の欲望を前提としていながら、肝心の欲望については何も教えないからだ。

 経済学から推測された人間像は便利さと物質的豊かさを求めていく存在。法相宗管長だった橋本凝胤師は1958年に米国を旅して「物量を誇る米国だが、紙を無駄使いするには驚いた」と表明し「精神的な生活はゼロだ」と判断した(『信ずるとは何か』)。

 また、欧米人は世の中がだんだん進んでいくと考え、東洋人はだんだん悪くなると考えると両者を対比する。仏教には仏陀の時代から遠ざかれば遠ざかるほど世は悪化するという末法思想がある。

 人間の住まいである地球環境を住み難いまでに破壊してきたのも人間の欲望である。「実に、被造物全体が、今に至るまで、共にうめき共に産みの苦しみを続けている」とパウロは代弁する。今こそ諸々の欲望の正体を明らかにし、整理する学問が必要なのだ。