オトシブミの季節。風物詩というほどポピュラー…


 オトシブミの季節。風物詩というほどポピュラーではないが、自然の多い土地では毎年必ずやって来る。道端にポトリと置かれたような姿は、興味のある人間にとってはちょっとした驚きだ。「落し文ひらきて罪をひとつ負ふ」(大橋敦子)は、オトシブミとの少しばかり悲しい出会いを詠んだ句だ。

 「落し文」には「道に置かれている手紙」の意味もあるが、ここでは虫のオトシブミだ。オトシブミは、クワガタムシやコガネムシと同じ仲間の甲虫を指す場合と、このオトシブミが生まれてくる子供のために作った「食料+住居」をいう場合がある。初夏の季語でもある。

 種類にもよるが、一つのオトシブミを作るには、30分程度かかるという。紙を小さく巻いたような形はかわいくもあるから、手に取ってみたくなる気持ちは分かる。

 子供にとって命の綱であるオトシブミを開けてしまった。どんどん開けていけば、小さな卵が見えてくるはずだ。が、いったん開いてしまえば、専門家でもない限り元には戻すことができない。

 母親が精魂込めて作ったオトシブミの中にいる卵は孵化(ふか)することもなく、死んでしまうしかない。なお、オトシブミ作りにオスが付き添うケースもあるという。

 何であれ、子供にとっては生命の元を断ったのだから、心ある人間にとっては「罪」に値する。ひょっとしたことで罪を犯してしまう人間の悲しさを詠んだ句とも思えてくる。