マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙…


 マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙―サイレンス―』が公開され、話題を呼んでいる。遠藤周作の同名の小説を映画化した作品で、同監督は「神の沈黙」という原作者と同じ問題意識を抱いていたそうだ。

 この小説は1971年、篠田正浩監督により映画化されたことがあった。映画は原作と違っていて、遠藤はテーマから外れていると不満を持った。だが同監督から「ぼくの『沈黙』です」と言われ、引き下がったという。

 さらに93年に松村禎三さんの作曲でオペラとして日生劇場で上演されたこともあった。この時遠藤は「松村さんの作品であってほしい」と期待し、音楽という別次元の作品に変容されたことを喜んだ(『心の航海図』)。

 帝塚山学院大学名誉教授の川上与志夫さんは、スコセッシ作品について「一つ不満を感じたのは、当時の農民や隠れキリシタンたちの厳しい生活があまり描かれていなかったことです」と話す(小紙1月30日付)。

 76年、小説『さらば、夏の光よ』が映画化される時、遠藤にインタビューしたことがあった。「原作とはだいぶ違うものになる」と話していた。文字による表現と映像による表現の技術上の違いを知っていたからだ。

 遠藤が生きていれば、スコセッシ作品についても「あなたの『沈黙』です」と繰り返すのかもしれない。遠藤は言葉による表現を極限まで追求した作家だ。原作と比べてみるといろんな発見があるだろう。