加賀金沢は、藩主前田家のもとで独特の…


 加賀金沢は、藩主前田家のもとで独特の料理文化が生まれた。朝原雄三監督の映画「武士の献立」は、加賀藩の料理頭を務めた舟木安信とその妻を主人公にしている。

 武芸を志すものの兄の急逝で料理人の役を継ぐことになった、高良健吾さん演じる安信は、「刀」ではなく「包丁」で藩に仕えることに不満を抱いている。そんな夫を上戸彩さん演じる料理上手の妻・春が助ける物語だ。

 「和食」が世界無形文化遺産に登録された折も折、楽しくかつ示唆に富む作品である。かつては武力、次に工業製品で世界に出ていった日本だが、「美味しさ」と「おもてなし」が認められた。それと重なるところがある。

 加賀で料理文化が発達した背景には、京都と江戸の二つの料理から影響を受け、日本海の海の幸など食材に恵まれたことがある。また、映画で料理考証を担当した陶智子、綿抜豊昭著『包丁侍舟木伝内』(平凡社)によると、5代藩主前田綱紀が大変なグルメだった。

 それとともに映画では、最大の外様大名・前田家に対する幕府の猜疑(さいぎ)心を挙げる。これを払拭(ふっしょく)するため、加賀藩は武より文に比重を置くだけでなく、豪華な饗応(きょうおう)料理による幕府への「おもてなし」に力を入れた。

 映画では安信が残した献立帳を基に再現した料理が次から次へと登場。試写が終わった頃にはすっかりお腹がすいていた。見た目の美しさが、食欲をそそる和食の力を改めて実感した。公開は14日から。