「山一つあなたに春のある思ひ」(高浜虚子)…


 「山一つあなたに春のある思ひ」(高浜虚子)。少しばかり暖かい日が続くと春が近いと感じるが、外に出てみると、まだ風が頬に冷たい。ふと「春は名のみの風の寒さや」という唱歌「早春賦」(吉丸一昌・作詞、中田章・作曲)の一節を思い出した。

 この歌詞の元になった風景は、長野県の安曇野あたりらしい。確かに安曇野のような高原であれば、冬から春へ向かう季節の変わり目は、まだ風の冷たさがひとしおかもしれない。

 明日は節分で、その翌日が立春となる。実際にはまだ寒い日が続くので、まさに暦の上での春である。そこには寒さの中に春を感じるという日本人の感性が反映されている。

 「賀茂川の水の心のどこか春」(野本永久)。まだ水は冷たいけれど、その中には春の水も混じっているのに違いない。このような心理を詠んだものだろうが、いかにも日本人ならではの感じ方、擬人化である。

 冷たいのに春が近いというのは、合理的に説明することは難しい。季節の移り変わりが繰り返される中で、こうした感性が磨かれたのかもしれない。そうした句をもう一つ紹介すれば「たしかなる春の鼓動を水音に」(吉富萩女)がある。

 もうすぐソチ冬季五輪がロシアで開催される。今回の五輪では、ジャンプ女子の高梨沙羅選手やフィギュアスケートの羽生結弦、浅田真央両選手らに金メダルの期待がかかる。そんなソチからの嬉しい春の便りが訪れることを待ち望みたい。