「水仙や表紙とれたる古言海」(高浜虚子)…


 「水仙や表紙とれたる古言海」(高浜虚子)。厳しい寒さの中でも、凛(りん)とした姿で咲く水仙は、この時期が見頃。黄色い花とすっきりと伸びた槍(やり)のような葉がシンプルで、孤高の精神を漂わせているようだ。

 名前自体が他の花と違って、どこか気品を感じさせるものがある。中国の古典に由来していると言われ、水にゆかりのある「仙人」というほどの意味らしい。日本には中国から渡来したが、学名はギリシャ神話から来ていて「ナルキッソス」。

 水に映った自分の姿に恋をして亡くなった美青年にちなむもので、彼は死後に水仙の花になったという。ここから自己愛や自己陶酔に溺(おぼ)れる人を指す「ナルシシスト」という言葉が生まれた。

 世俗から脱して悟りを開いた「仙人」と自己愛に溺れる「ナルシシスト」は、まったく対照的と言っていいほど。東西それぞれの精神文化が影響しているのかもしれない。

 よく美しい花にはトゲがあると言われる。バラがその代表的なものだが、実は水仙にもトゲと同じようなものがある。それが植物毒。田中修著『植物はすごい』(中公新書)によれば「リコリン」という有毒な物質だ。

 この水仙の葉を食べて食中毒を起こす事件も少なくない。それは食用のニラの葉と間違って食べたことによる。それだけ葉の形が似通っているのだ。食べられないように毒を持つというのは、美しい花が持つ自衛手段のようで興味深い。